”たった一人のサンタクロース”第4話『おめかしサンタ』.

『うわーい!サンタさんがプレゼントをくれたー!』
『良かったわね』
『あのね、おかあさん、ボク、サンタさんにあったんだよ!』
『そうなの、すごいわね』
『うん!おはなしもしたんだよ!』
『へぇそうなの。サンタさんはどんな人だったの?』
『うんとね、まっかなおようふくで、しろいおヒゲをつけてて、とってもやさしそうなおじいさんだった!』
『じゃあこの絵本のサンタさんと同じね』
『うん!またサンタさんきてくれるかな?』
『良い子にしてたら来てくれるわよ』
『わかった!』
『そう思ってるなら早く起きなさい!』
『えーボクおきてるよママ』

「何を寝ぼけてるの!」
「あたっ!」

顔面に強烈な痛みを感じ目を開けると、目の前に母親が眉間にシワを寄せて立っていた。

「……あれ…母さん?何で母さんがいるんだ?」
「まだ寝ぼけてるのかい!夜中に突然帰ってきて終電無いからって泊まったんでしょう!」
「そういえばそうだった……でも何で顔が痛いんだ?」
「気のせいじゃないかい?」

そういう母親の手にはお玉が握られていた。
そうか、中々起きない俺の顔をぶっ叩いたんだな。
何て暴力的な母親なんだ。

「えーボクおきてるよママ」
「んっ?」

声のしたドアの方を見ると、れいなとコハルがニヤニヤしながら部屋の中を覗いている。

「何訳分からないこと言ってんだお前?」
「何ってたった今兄貴が言ったんじゃん」
「なっ!そんなこと言うわけないだろ!」
「言ってたよ修介」
「何言ってんだよコハル、俺は大学生だぜ?女ならともかく男が大学生にもなってママなんて言ったら気持悪いだろ」
「そうかなぁ?」
「久しぶりにアンタにママと呼ばれたから何だか照れくさいわね」
「か、母さん!」
「いやぁ兄貴も可愛いとこあるじゃん」
「うん、修介可愛かった」
「れいな、コハル、お前らは黙ってろ!」
「おぉこわっ、コハルちゃんマザコンな兄貴は放っておいて朝御飯食べちゃおう?」
「うん、じゃあ修介、また後でね」
「おい!お前ら!誰がマザコンだ!ちょっと待て!」
「ちょっと待ちなさい。アンタはとにかく早く着替えなさい」
「わ、分かったよ」
「ところで、あのコハルちゃんって子、れいなの友達なんだよね?」
「そ、そうみたいだな」
「それにしてはやけにアンタと親しそうじゃないの。お互いに名前で呼び合ったりして」
「さ、最近はそれが普通なんだよ」
「ふぅん、まっ良いけどね。とにかく早く起きて朝御飯食べちゃいなさい」
「分かったよ。あっそうだ母さん、ちょっと頼みがあるんだけど……」

     ◇

昨日は喧嘩が原因で姿を消したコハルを半日探し回り、実家の近所の公園でやっと見つけた時には既に終電が終っていた。
その時たまたま妹のれいなと会い、コハルをれいなの友達ということにして、実家に泊めてもらったのだ。
ちなみに俺は友達と会っていて終電が無くなったということになっている。
つまりは俺とコハルは初対面ということになってるのだが、今朝のやり取りでは誰が見ても初対面には見えないだろう。
でも今朝見た夢、あれはもしかして昨日の夢の続きだったのだろうか。
いやもしかすると、覚えていないだけで俺が子供の頃に実際にあった出来事の再現なのかもしれない。
何故なら、俺が約10年前にコハルと会っている事実がある以上、本物のサンタと会話したことがあっても不思議じゃないのだ。
そういえば、れいなはそのことを覚えているのだろうか?
今のコハルにあの当時の面影は残っているが、本来サンタと出会った記憶は消去されるのだから覚えていないと考えるのが普通だろう。
もっともあの時のコハルはサンタでもなければ見習いでもない、ただのサンタの孫でしかないのだが。

「ご馳走様でした」
「お粗末様でした。お口に合ったかしらコハルちゃん」
「すごく美味しかったです。夜中に突然押しかけて泊めて頂いた上に朝御飯までご馳走になってしまい申し訳ありません」
「いえいえ、たいしたお構いもしてないんですから気にしないでください。それにれいなの友達ならいつでも大歓迎ですよ」
「ありがとうございます、お母様」

コハルのやつ、あんなちゃんとした喋り方も出来るんだな。
母さんまでよそ行き言葉になってるし、何だか不思議な感じだ。

「それではそろそろ失礼致します。本当にお世話になりました」
「ゆっくりしていって良いんですよ」
「お気持ちは嬉しいですけど用事もあるのでこれで」
「そうですか、それではまた遊びに来てくださいね」
「はい」
「じゃあコハルちゃん、また来てね」
「はい、れいなさんもありがとうございます」

コハルにれいな、母さんの三人はお互いに挨拶を交わす。
やはり何だか妙な感じだ。
一番の原因はやはりコハルの言葉遣いだ。
アイツと過ごした時間はまだ一日にも満たないが、初めて会った時ですらあそこまで丁寧な言葉遣いじゃなかった。

「それじゃあ母さん、俺も帰るよ。さっきはありがとう」
「気にしなくても良いわよ。それよりあの子を泣かせるんじゃないわよ」
「あ、あの子って?」
「コハルちゃんしかいないじゃないの。れいなの友達ってのは嘘なんでしょ?」
「な、何で嘘だと思うんだよ」
「何年アンタ達の母親をやってると思ってるのよ。子供の嘘ぐらいすぐに分かります」
「………」
「最初にあの子の格好を見た時は驚いたけど、良い子なんで安心したわ。大切にしてあげなさい」
「い、いや、別に俺達はそういうんじゃ……」
「照れるな照れるな我が息子よ。アンタにもやっと春が来たんだから母さんは嬉しいわ」
「………」

嘘を見抜いた所までは、さすが母親であると褒めておこう。
しかし完全に誤解をしている。
予想の範疇とはいえ、俺とコハルが付き合ってると思うとは。
だが本当のことを言えるわけじゃないし、どうせクリスマスイブの日には俺も含め全員がコハルのことを忘れるんだから気にしないことにしよう。

     ◇

駅までの道をコハルと並んで歩く。
当たり前のことだが、通行人達はコハルの姿に振り向きながら通り過ぎる。
もう少しクリスマスに近いか、商店街や店の中ならともかく、街中をサンタの姿の少女が歩いていればどうしても目だってしまうからだ。

「修介のお母さん素敵な人だね」
「そうかぁ?別に普通だと思うぞ」
「それが良いんじゃん。何事も普通が一番なんだよ」
「昨日は普通が良いわけじゃないみたいなこと言ってなかったかお前」
「忘れたー」
「まったく、調子の良いやつだ」
「えへへ」

コハルは楽しそうな笑顔を見せる。
昨日コハルがいなくなった時はこの笑顔を見れなくなるのではと心配したが、今こうして隣りでいてくれることが俺にとって凄く嬉しく感じられる。
まだ出会って少ししか経ってないのに、こんなにも大切に思えてることが自分でも不思議な感じだ。

「ねぇ修介、今日は大学は行かないの?」
「あぁ今日は取ってる講義も無いから行かなくても大丈夫だよ」
「じゃあお家に帰るだけだね」
「いや、その前にちょっと付き合え」
「えっ何処に?」
「それは着くまで秘密だ」

     ◇

俺はコハルを連れて商店街の一軒の店の前へとやってきた。

「なんだ買い物か。でもここって女物の服しか置いてないみたいだけど?」
「そりゃそうだ。お前の服を買うんだからな」
「えっコハルの?」
「あぁ、まだ試験の日程は残ってるんだし、ずっとそのサンタ服一着ってわけにもいかないからな」
「でもコハルお金持ってないよ?」
「誰もお前に金を出させるなんて言ってないよ。プレゼントだよ、プ・レ・ゼ・ン・ト」
「プレゼント?」
「あっでもあまり高いのは買ってやれないぞ?予算は3万しかないからそれ以内で買える分なら何着でも良いからな。それに服の他に下着も必要だし、今は冬なんだから上着もいるよな。だとすると洋服を何着もってわけにはいかないか……」
「駄目!」

コハルは突然真面目な顔をしてそう言う。

「何が?」
「プレゼントがだよ。サンタのコハルがプレゼントを貰うわけにいかないもん」
「そういう決まりでもあるのか?」
「それは別に無いけど……」
「だったら良いじゃないか。遠慮しないで受け取ってくれよ」
「でも……。あっそれに確か修介お金ピンチだって言ってなかった?」
「あちゃあ、覚えてたのか……。実はさ今朝母さんにお金借りたんだよ。今度のバイト代が入ったら返すって約束でな。だから心配する必要は無いぞ」
「だけどコハルはクリスマスが終れば帰っちゃうんだよ?無駄になっちゃうし……」
「別に帰った後にだって着ても良いだろ?それにさ、昨日お前を泣かせてしまったことに対するお詫びも兼ねてるんだし、ここは俺を立てると思ってさ」
「………うん、じゃあそういうことなら」
「よし、じゃあ俺はここで待ってるから好きなの選んでこいよ」
「えっ?修介は行かないの?どうせなら選んでもらいたいな」
「えっ…それはちょっと……」

とは言ったものの、コハルが納得してくれるはずもなく、結局無理やり店の中に連行されてしまった。
彼女いない暦=年齢の俺は当然のように、このような店に入ったことは一度も無い。
周りを見れば恋人同士と思われる男女も何組かいるのだから、俺達だって何ら不自然ではないのだが、今言ったように俺自身がこういう場所に慣れてないのと、今まで何度も感じてきたコハルのサンタの服の不自然さが、俺に居心地の悪さを与えてしまっているのだ。
しかしコハルはというと、別に気にした様子もなく、目を輝かせながら沢山並ぶ洋服を物色している。

「修介、これ試着してみて良い?」
「試着するだけならタダなんだからいくらでもしろ」
「うん!じゃあちょっと待っててね!」
「はーい……結局自分で選んでるし。まぁ楽しそうだから良いか」

しかし世の彼女持ちの男は皆こんなことをしてるのだろうか?
彼女の洋服選びに付き合わされ、場違いな場所で放置されるという羞恥プレイを。
もしかしたら俺が思ってるより、たしたこと無いのかもしれないけど、異性と二人で買い物することですら二十歳にして初体験の俺には少々レベルが高かったようだ。

「ねー修介、着たから見てくれる?」
「あぁ」
「じゃーん!」
「!」
「どうかな?」
「あぁ、似合ってる、すげぇ可愛いよ」
「本当!?やったー!じゃあ今度はこれにしよーっと」

そんな感じで、見習いサンタのファッションショーは三時間にも及んだのだった。

     ◇

「修介本当にありがとう、大切にするね!」
「喜んでくれて俺も嬉しいよ」
「フフフ~ン♪フフフ~ン♪フフフフフ~ン♪」

コハルは鼻歌を歌いながら、買ったばかりの服を着てご機嫌だ。
その姿はそこら辺にいる普通の女子高生と何ら変らない。
そして周りの奴らから見れば俺達は普通のカップルに見えてるのだろう。
それを意識したからなのか、妙に緊張してしまう。

「修介ってば!」
「うえっ?何?」
「何?じゃないよ!さっきから呼んでるの全然返事してくれないんだもん!」
「ごめんごめん、ちょっと考え事をしてた」
「もう!」
「で、何?」
「うん、これからどうするのかなぁって思って」
「そうだなぁ、昼も過ぎてることだし、どっかで飯でも食って帰ろうぜ」
「そうだね。で、何処で食べるの?」
「だったら知り合いがバイトしてるレストランがあるからそこに行こうか」
「うん!」

こうして俺達は昼食をとるためにレストランへと行くことにしたのだった。

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