”たった一人のサンタクロース”第3話『公園のサンタ』

もう時間は夜の9時を回っている。
一旦部屋に戻ったがコハルが帰ってこなかったので、あれからずっと街中を探し回ってるのだが、コハルはまだ見つかっていない。
さっき与田から、大学に置きっぱなしにしたままだった俺の鞄を預かってくれてるとメールが来た。
そしてコハルのことに関しても『あえて訊かないけど何かあったらいつでも言ってくれ』と言ってくれた。
俺はそんな与田の気遣いに心から感謝した。

しかしコハルは一体何処に行ってしまったんだろうか?
もしかして試験を放棄して帰ってしまったとか?
いや、それならコハルに関する記憶が俺の中から消えてるはずだ。
つまりまだ何処かにいるに違いない。

「くそっ…何処だ、何処にいるんだよ」

俺はコハルを探すため再び駆け出すのだった。

     ◇

あれから更に二時間が過ぎた。
しかしやはりコハルを発見することは出来ずにいた。
コハルとは昨日出会ったばかりだ。
言ってしまえば俺はあの子のことを何も知らない。
何が好きで何が嫌いとか、普段どういう音楽を聴くとか、小さい頃何をして遊んだとか、全く知らないのだ。
唯一知ってることと言えば、今年16歳になり、本物のサンタクロースになるための試験で俺の所へ来たということだけ。
今日の朝、あんなに安らぐ気持ちを感じていたのに、まさかこんなことになるだなんて予想もしていなかった。

「ハァハァハァ、何処だ、何処にいる……」

気がつくとそこは公園だった。
こことは違う場所だが公園には想い出があり、子供の頃は妹のれいなを連れてよく遊びにきていた。
両親が共働きで、夕方にパートを終えた母親が迎えにくるまでずっと公園で過ごしていたのだ。
そういえば一度だけ知らない女の子と一緒に遊んだことがある。
10年くらい前だろうか?
れいなよりも小さい、多分幼稚園の年長か小学校の一年生くらいの子だった。
そうだ、丁度今くらいの時季じゃなかっただろうか?


   『お兄ちゃんブランコ乗ろうよ!』
   『乗ろうってまた兄ちゃんが後ろから押す役なんだろ?』
   『あったり前じゃん!お兄ちゃんなんだから』
   『分かったよ、まったくワガママな妹を持つと苦労するよ』
   『れいなワガママじゃないもん!』
   『あれ?』
   『どうしたのお兄ちゃん?』
   『いや、あそこ。サンタの服を着た小さい女の子が一人で座ってる』
   『本当だ、でも見かけない子だね』
   『一人で何やってんだろう?』
   『れいな達と一緒でママを待ってるんじゃないの?』
   『そうかもな。よし、あの子も誘うぜ。一人じゃ可哀想だ』
   『そうだね、おーい!一緒に遊ぼー!』
   『えっ…』
   『君もお母さんを待ってるんだろ?だったらそれまでお兄ちゃん達と一緒に遊んでないか?』
   『ママじゃないの。おじいちゃんをまってるの』
   『じゃあおじいちゃんが来るまで一緒に遊んでよう』
   『でもおじいちゃんはこないの』
   『えー何で?』
   『おじいちゃん、しんじゃったから』
   『えっ…』
   『……じゃあどうして君はここにいるの?』
   『ここ、おじいちゃんがすきだったから。まいとし、いちねんにいっかいだけ、ここでおじいちゃんとあそんでたの』
   『そっか、おじいちゃんとの想い出の場所なんだね』
   『うん』
   『お兄ちゃん達じゃおじいちゃんの変りにはなれないかもしれないけどさ、一緒に遊ばないか?』
   『でも……』
   『それに君がそんな暗い顔をしていたらおじいちゃんも悲しむよ?』
   『そうだよ、ねっ一緒に遊ぼう?』
   『………うん』
   『お兄ちゃんの名前は修介だ。よろしくね』
   『お姉ちゃんはれいなだよ』
   『しゅうすけおにいちゃんに、れいなおねえちゃん……』
   『君は?』
   『………コハル……』


突然子供の頃の記憶が鮮明に甦ってきた。
今の今まですっかり忘れていたのに何で今になって……。
でもあの時出会った少女は確かにコハルと名乗っていた。
まさか、あの時の子がコハルだったのか?
もしあの時の少女がコハルだったのだとしたら、もしかしてコハルはあの公園にいるのかもしれない。
あの公園は電車で三駅先の俺の実家のある街にある。
俺は腕時計で今の時間を確認する。
急げばまだ終電に間に合う時間だ。

「コハルいてくれよ……」

俺は駅へ向かって駆け出した。

     ◇

数ヶ月ぶりに地元の駅へ降り立った。
当たり前のことだが、前に来た時と全然変っていない。
しかし感傷に浸ってる暇は今の俺にはなく、コハルと初めて出会ったあの公園へと急いだ。
その頃には雪が少しちらついており、足元がおぼつかず、中々思うように走れなかった。
どうせならクリスマスイブまで雪はとっておいてほしかったが、こればっかりはどうしようもない。
それに今降ったからといってイブの夜に降らないというわけではない。

「ハァハァハァハァ……」

肩で息をしながらも、公園へとたどり着いた。
コハルは本当にここにいるんだろうか?
もしここが外れだったらもう探しようがない。
頼む、いてくれよ……。
公園の中へと足を踏み入れ、辺りを見渡す。
そしてブランコの方を見ると、赤い服を着た少女の姿を発見した。

「コハル!!」
「えっ?修介!?」

コハルは俺の姿を確認し驚いた表情を見せている。
そして俺はコハルの元へと駆け寄り、無意識に抱きしめていた。

「ちょ、ちょっと修介、苦しいよ。ねぇお願いだから放してってば」
「嫌だ、放さない」
「ねぇどうしちゃったの?ねぇ修介」
「良かった、本当に良かった。あのままもう会えないかと思った……。ゴメン、ゴメンなコハル……」
「修介……」

気がつくと俺は泣いていた。
コハルが見つかった喜びと安堵感で、後でからかわれる可能性があることも忘れ泣いてた。
そしてコハルはそんな俺を優しく抱きしめ返してくれたのだった。

     ◇

「びっくりしたよ。修介男のくせに泣きだしちゃうんだもん」
「しょうがないだろ、半日ずっとお前を探し回ってやっと見つけたんだから」
「そっか、そんなにコハルのことを心配してくれたんだ」
「当たり前だ!あんな形でいなくなられて心配しないわけないだろ」
「だって修介が頭ごなしに怒るんだもん」
「だからそれは謝ったじゃなか。お前の気持ちも考えないで怒鳴って悪かったって」
「うんそれは分かってるよ。それにコハルも悪かったんだもんね。留守番してるって約束破ったんだから」
「そうだぞ。もしお前がサンタだとばれたら今年の試験が不合格になって困るのはお前なんだからな」
「そうだよね、ごめんなさい……」
「まぁお互いに悪かったってことでお互いに謝って、これで仲直りだ」
「うん!あっでもどうしてコハルがここにいるって分かったの?」
「思い出したんだよ。ここでコハルと会った時のことを」
「えっ嘘……」
「嘘じゃないよ。正確に何年前だったかまでは覚えてないけど、10年くらい前にここでコハルは一人で寂しそうに座ってた。おじいちゃんを待ってるんだって。でもそのおじいちゃんが亡くなっていて、おじいちゃんが好きだったこの場所で迎えになんてこないはずのおじいちゃんを待っていた」
「そんな……覚えてるはずなんかないのに。コハルと出会った記憶は消されてるはずなのに……」
「やっぱそうだったんだ。でも何故か突然思い出したんだよな。きっとそれだけお前の存在が俺の中で大切で大きな存在になったから思い出せたんじゃないかな?」
「なっ!ななななななな……何言ってるのよ!ば、馬鹿じゃないの!」

予想外にコハルは顔を真っ赤にし思いっきりうろたえている。

「何照れてるんだよ」
「照れてないもん!何でコハルが照れなくちゃならないの!だってサンタのコハルが照れるわけないじゃん!」
「サンタかどうかは関係無いだろ。それにお前はまだ見習いだ」
「そ、そりゃそうだけど……でも修介って女たらしだ!」
「おいおい人聞きの悪いこと言うなよ。そんな奴が彼女いない暦=年齢になるわけないだろ」

俺の人生で女たらしなんて言われたのは初めてだ。
まったく、こいつといると飽きないぜ。

「あっそうだ、弁当サンキューな。美味かったよ」
「うっそ!あれ食べたの?」
「あぁでも二人分だったから少し多かったけどな」
「地面に叩き付けたから中ぐちゃぐちゃだったでしょ?」
「うん、でも味は変らないんだし問題無いよ」
「駄目!あんなの食べちゃ!今すぐ返して!」
「だからもう食べたって言ってるだろ。無茶言うな」
「もぉ、サイアクだ……修介のバカ……」
「なんで馬鹿呼ばわりされなくちゃ駄目なんだよ。普通だったらここは「ありがとう」とか「嬉しい」じゃないのか?」
「普通が常に正しいわけじゃないもん!」
「何をもっともらしいことを言ってるんだか……あっ!」
「どうしたの?」
「ど、どうやっって帰ろう……終電はとっくに終っちゃってるぞ」
「あーそういえば……」
「俺の実家はすぐそこだから実家に泊まるって手もあるけど、コハルを連れてってのはなぁ。たとえコハルがサンタじゃなくても確実に怪しまれるし……」
「じゃあ歩いて帰ろう!」
「ここからだと三駅だぞ?さすがにその距離を歩くのはこの真冬だと厳しすぎる。タクシーを使うって手もあるけど、生憎今は金欠で手持ちも無ければ、家に帰ってもありはしない」

そんな感じで途方にくれていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あれぇ?兄貴?」
「げっ!?」

そこには妹のれいなが立っていたのだ。

「兄貴こんなことで何してるわけ?」
「そういうお前こそこんな時間に何やってるんだ!若い女の子が夜中にふらふら出歩くな!」
「うるさいなぁ、お腹が空いたからコンビニまで行ってきた帰りだってば」
「そうか!コンビニで朝まで居れば……って流石にそれは迷惑か。ここら辺には二十四時間営業のレストランも無いし……」
「何ぶつぶつ言ってるの?っていうかその子誰?兄貴の彼女?」
「ち、違うって、この子は……」
「この子は?」
「……と、友達だ」
「友達ぃ?」

明らかに疑っている。
まぁそれは当然だろう。
どう見ても俺より年下で、しかもサンタの服を着てるんだから、素直に友達だと言うのを信じろってのは無茶な話だ。

「……何か事情がありそうだね。分かった、じゃあママ達には私の友達ってことにして今日はウチに泊まめてあげようか?」
「マジでか!?」
「これで貸し一つだからね」
「あぁ分かってるって。良かったなコハル、何とかなったぞ!」
「うん。あの、ありがとうございます、れいなさん。私コハルと言います。よろしくお願いします」
「困った時はお互い様だってば。あれ?でも何で私の名前しってるの?」
「あっ」
「あ、あれだよ、さっきまでお前のこと話してたんだ。れいなって名前の生意気な妹がいるって」
「生意気ぃ?ほぉ兄貴は可愛い妹のことをそんな風に思ってたんだ」
「自分で可愛い言うな」

まったく、何で俺がこんな苦労をせねばならないんだか。
でも、れいなのお陰で今日の宿は確保できたんだから素直に感謝しなくちゃな。

「じゃあ帰ろうぜ」
「そうだね。えっとコハルちゃんだったよね?今日は私の部屋で一緒に寝ようね。兄貴のこと色々教えてよ」
「は、はい」
「コハル、余計なことを言うなよ。それとれいなも余計なことをコハルに吹き込むんじゃないぞ」
「「は~い」」

本当に分かってるんだろうかコイツら………。

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