”たった一人のサンタクロース”第2話『消えたサンタ』

『メリークリスマス!』
『………サンタさん?』
『そうだよ』
『ホントにホンモノのサンタさん?』
『あぁそうだ、良い子にしてた坊やにプレゼントを持ってきてあげたよ』
『ありがとうサンタさん!』
『さぁ子供はもう寝るんだ、そうしないとプレゼントを持って帰っちゃうよ?』
『ヤダヤダヤダ!ボクねるよ。だからプレゼントもってかえっちゃヤダ!』
『じゃあおやすみ。良い夢を見れることを祈ってるよ』
『うん、おやすみなさいサンタさん』

………
……


夢にサンタクロースが出てきた。
そのサンタクロースは絵本とかに出てくる白い髭でふくよかな姿をした老人だった。
そうだ、俺も子供の頃はサンタクロースを信じていたんだよな。
いつぐらいからだっけ?本当はサンタクロースなんて存在しなくて、プレゼントは親がくれてるものだと知ったのは。

トントントントン……

夢の中から現実に引き戻され、まどろみの中目覚めると小刻に何かを叩くような音が聞こえてきた。
何だこの音?……そうか、まな板の音だ。
でも一人暮らしの俺の部屋で何でこんな音が聞こえるんだ?
薄目を開け、流し台の方に視線を移す。
そこには赤い服を着た少女の後姿があった。

「……サ、サンタクロース?」
「あっおはようございます!」
「!!!」

サンタクロースの衣装を着た少女の満面の笑みで一気に目が覚める。
そうだ、この子がいたんだった。
見習いサンタのコハル。
本物のサンタクロースになるための試験で、昨日の夜から二週間、俺と一緒に暮すことになったんだ。

「お、おはようコハル……」
「もうすぐ朝御飯出来るから待っててくださいね」
「あぁありがとう……」
「フフフ~ン♪フフフ~ン♪フフフフフ~ン♪」

コハルはジングルベルのリズムを鼻歌を歌いながらご機嫌にネギを切っていた。
はっきり言って今までの俺の人生でこんな場面を経験したことは一度も無いので少し照れ臭さを感じる。
しかしそれ以上に、少々目のやり場に困ってるのが現状だ。
サンタの衣装といっても、コハルは一般的な長い赤ズボンを履いてるわけでなく、赤いミニスカートを履いている。
そのミニスカートからコハルの長い足が伸びており、健康的な二十歳の男子である俺には刺激が強すぎるのだ。

「あれ?どうしたんですか顔が真っ赤ですよ?」
「うえっ!?な、何でもないよ、あははは……」
「あーもしかして熱があるとか?昨日結構長い時間外にいましたからね。よし熱を測ろう!」
「!!!」

ベタな展開なのかもしれないが、コハルは熱を測るために自分の額を俺の額にぴったりと着けてきた。
つまりはすぐ目の前にコハルの顔があるわけで、必然的に彼女の微かな吐息が俺の顔にかかる。

「ちょっと熱いかも。やっぱり風邪ですね。あっコハルがベットを占領しちゃったからかなぁ?」
「だ、大丈夫だよ風邪なんかじゃないからさ」
「でも顔は真っ赤だしおでこ熱いですよ?そうだ!今夜からはベットで一緒に寝ましょうか?」
「駄目駄目!それは駄目!それに俺は平熱が高いの!だから風邪とかじゃないし、全然元気だから大丈夫だって!」
「そうなんですか?」
「そうそう、だから何の問題も無し!」
「それなら心配無いですね。よしっ!じゃあ朝御飯食べちゃいましょう?」
「あ、あぁ…」

ふぅ疲れる……。
一応この子だって年頃の女の子なんだから少しくらいは恥じらいを持っても良さそうなのに。
それともサンタってのは皆こんな感じなのだろうか?

「どうですか?美味しいですか?」
「あぁ美味しいよ。それにこんな風に誰かの手料理を食べるのは久しぶりだから凄く嬉しい」
「よかったぁ喜んでもらえて。まだまだ沢山あるからイッパイ食べてくださいね!」

か、可愛い…なんて無邪気な笑顔を見せるんだこの子は……。
正直に言うと俺は朝は殆んど食べないタイプだ。
でもこんな笑顔を見せられると食べないわけにいかなくなるじゃないか。

「あのところで、お兄ちゃんの願い事って何ですか?」
「あのさぁ、そのお兄ちゃんっての止めないか?」
「えーじゃあどう呼んだら良いですか?」
「普通に名前で呼んでくれて良いよ。それと別に敬語も使わなくて良いから」
「じゃあ修介って呼ぶね。修介の願い事って何?」
「うーん願い事かぁ。そう言われてもぱっと思いつかないんだよなぁ」
「まぁ意外とそういうものなのかもね。まだ時間は沢山あるんだからゆっくり考えててね」
「あぁ分かったよ。ところで今何時なんだ?」
「もうすぐ10時になるけど」
「なんだって!?やべぇのんびり話ししてる場合じゃなかった!今日は絶対に落とせない講義のある日だ!」
「そうなの!?ごめんなさい、コハルのせいで遅刻しちゃったらどうしよう……」
「別にコハルのせいだなんて思ってないよ。知らなかったんだから仕方ない。それに急げばまだ間に合うから大丈夫だよ」
「でも……」
「とにかく俺は大学に行って来るから留守番しててくれ。あっ誰か来ても出ちゃ駄目だからな?」
「う、うん」
「じゃあ行って来ます」
「行ってらっしゃい」

コハルを家に残し俺は全速力で大学へと向かった。
しかしまさかあんな大騒ぎになるなんて、この時は思っていなかったのだった。


     ◇


ギリギリだったが何とか講義が始まる前に大学に到着することが出来た。
しかし昨日からの一連の出来事と、全速力で走ったことで精神的、肉体的に疲れていたため、殆んど寝て過ごしてしまい、講義の内容はさっぱり頭に入っていなかった。
こういう時に睡眠学習を会得してる奴は得だと思う。

「お前がギリギリに来るなんて珍しいな」

講義が終り学食へ行こうとすると友人の与田が話し掛けてきた。

「まぁちょっと色々あってな」
「何だよ色々って。妙に疲れた顔をしてるし。あっもしかして彼女いない暦=年齢に終止符を打ったのか?」
「そんなんじゃねーよ」
「そりゃそうだ。お前に彼女が出来たら今世紀最大の大事件になっちまうもんな」
「うるせー!大きなお世話だ!」
「ちなみに俺は毎日絵里とラブラブだ」
「誰もそんなこと聞いてねーし」
「良いぞぉ彼女のいる生活ってのは。毎日がハッピーなんだからな」
「そんなのお前の顔を見れば十分伝わってくるっての」

まったく、何かある度に惚気やがって。
少しは彼女のいない友人を気遣うってことが出来ないのかよ。
絵里ちゃんもコイツのどこが良くて付き合ってるんだ?

「なぁ何だあの人だかり」
「えっ?本当だ、何かあったのかな」

与田の言うように、学食近くの廊下に人だかりが出来ており、何やらざわざわと騒がしい。
そんなざわめきに耳を傾けてみると……

『誰なんだあの子は』
『高校生よね?』
『っていうか何でサンタの格好してんだ?』
『でも結構可愛いぞ。ぶっちゃけ俺タイプ』
『あのミニスカートからすらっと伸びた長い足最高だぜ!』
『ちょっとアンタ達目がヤバイわよ』

そんな会話が聞こえてくる。
サンタの格好?ミニスカートから伸びる長い足?

「まさか!?」
「おい田中!どうしたんだよ!」

与田に呼び止められたが今はそんな場合じゃない。
このタイミングでうちの大学に現れるサンタの衣装の高校生くらいの女子といえば一人しか思いつかない。
人だかりを押しのけると、そこには昨日の夜出会ったばかりの見習いサンタがいた。

「……やっぱり」
「あー!修介見つけたー!!」
「バ、バカ……」

その場にいた全員が一斉に俺に視線を向ける。
そしてコハルは笑顔で俺の所へ駆け寄ってきた。

「何でコハルがここにいるんだよ!」
「だって一人で留守番してるのが寂しかったんだもん。それにコハルは修介とずっと一緒にいなくちゃ駄目だしね」

『あの男子、女子高生と同棲してんの?」
『まさかあのサンタの衣装はそういうプレイなのか?』
『うわぁそれって変態じゃん。スカートなんかあんなに短いし』
『あいつって確か文学部の田中だぜ』
『やだぁ大人しそうな顔してやることやってるんだ』
『サイテー』

心外だ、きわめて心外だ。
何で俺が変態扱いをされなくちゃ駄目なんだよ。

「ちょっと来い」
「えっ何処行くの修介?」
「良いから来い!」

誤解を解いておきたかったが、コハルが本物のサンタであることを秘密にしたまま納得させる術を持っていなかったので、俺はコハルの手を引きその場を逃げるように立ち去るしか出来なかったのだ。


     ◇


「バカ!家で留守番してろって言っただろ!」
「だって…」
「だってじゃない!だいたいサンタであることを秘密にしなくちゃ駄目なのにその姿で出歩くやつがあるか!」
「でもこの服しか持ってないし……」
「だったら大人しく家にいろ!」
「……カ…」
「何だって?言いたいことがあるならはっきり言え!」
「バカ!修介のバカ!コハルの気持ちも知らないで怒ってばかり!修介なんか大嫌い!」
「お、おい!」

感情を爆発させ、その場を走り去るコハルの目からは大粒の涙が流れていた。

「しまった…言いすぎたか……。いや俺は悪くない。サンタだとバレれば困るのはアイツなんだ。なのにフラフラ出歩くアイツが悪いんだ」

自己嫌悪を感じながらも自分に言い訳をして、自分の言動を正当化しようとしてる自分に気がついた。
その時、足元を見ると白い袋が落ちていた。
サイズは小さめだが、サンタがプレゼントを配る時に持っている白い無地の袋と同類である。
そういえば昨日初めてウチに来た時からコハルが持っていたやつで、たった今アイツが叩き付け、そのまま放置していったのだ。

「んっ?何か入ってる……あっこれは……」

袋の中に入ってたものは二つの弁当箱だった。
一つは大きめで、もう一つは一回りくらい小さいサイズの弁当箱だった。
アイツこれを俺に食べさせたくて持って来たってのか。

   『どうですか?美味しいですか?』
   『あぁ美味しいよ。それにこんな風に誰かの手料理を食べるのは久しぶりだから凄く嬉しい』
   『よかったぁ喜んでもらえて。まだまだ沢山あるからイッパイ食べてくださいね!』

今朝のコハルとのやり取りが甦る。
自分の手料理を褒められたのがよっぽど嬉しかったのか、あの時のコハルは満面の笑顔を見せていた。
だからこうやって弁当を作って持ってきたのだ。
俺がまた喜んでくれると思って。
なのに俺はアイツの話しをちゃんと聞かずに頭ごなしに怒鳴ってしまった。

   『バカ!修介のバカ!コハルの気持ちも知らないで怒ってばかり!修介なんか大嫌い!』

ついさっきコハルに言われた一言、そして涙を思い出し胸がチクリと痛んだ。
俺はバカだ。コハルとは昨日会ったばかりだけど、あの子が良い子だってのはとっくに分かっていたことじゃないか。
なのに頭ごなしに怒鳴って、あの子の純粋な心を傷つけてしまった。

「……謝らなくちゃ」

午後からの講義や教室に置いたままの鞄の存在など忘れ、俺はそのまま自分の部屋へと急いだ。
しかし部屋に戻ってもそこにコハルの姿は無かったのである。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

面白い

この記事へのコメント