”たった一人のサンタクロース”第1話『見習いサンタ』

街はイルミネーションで彩られ、若者を中心に賑わいを見せていた。
つまりは今年もとうとうこの時季がやってきたということだ。
そう、今年もあと二週間でクリスマスがやってくるのだ。
クリスマスは子供達にとってはサンタクロースからプレゼントを貰える嬉しい日であり、恋人達にとっては愛を深めることが出来る特別な日である。
しかし子供でない俺にはサンタがプレゼントを持ってくることはないし、恋人も居ない俺には愛を深めることすら出来ない、全く意味の無い日なのである。
もちろんそれは俺だけではないのだろうが、毎年この時期になるとどうしても憂鬱になってしまう。

一応自己紹介しておこう。
俺の名前は田中修介、二十歳の大学2年生だ。
そして彼女いない暦=年齢という非常に寂しい人生を送ってきた。

「……虚しい」

そんなことをボソリと呟いたのと同時に玄関の呼び鈴が鳴った。
こんな時間に誰だ?
そんな疑問が当然のように浮かぶ。
普段この部屋にやってくる人間と言えば大学の友人か母親、後はたまに妹のれいな来るくらいのもんだ。
しかし時間は夜の10時を回ってる。
ここでの生活も二年になるが、何の予告も無しに誰かがこの部屋を訪ねてきたことは無い。
可能性としては大学の友人が一番高いが、全員が彼女と過ごすクリスマスの資金調達の為にバイト中のはずだ。
時間にして数秒だが、頭の中で可能性を一個づつ消していたら再び呼び鈴が鳴る。

「はいはい、今出ますよー」

ドアの向こうに声をかけながらドアノブを回す。
するとそこには真っ赤な服を着た一人の少女が立っていた。
正確に言うと、サンタクロースの赤い衣装を着た少女だ。

「メリークリスマス!」

少女は満面の笑みでクリスマスの定番の挨拶をしてきた。

「メ、メリークリスマス……ってクリスマスまではまだ二週間あるんだけど…」
「それじゃお邪魔しまーす」
「あぁはいどうぞ………ってちょっと待った!」
「何ですかぁ?」
「何ですかぁ?じゃない!君は誰なんだよ!」
「見ての通りサンタでーす!」
「いやそれは分かるけど……ってそうじゃなくて!」
「あははは、おもしろ~い♪」
「面白くない!俺が言ってるのは、何でサンタのコスプレをした少女が突然やって来て家に上がりこもうとしてるんだってことだ!」
「えーとですねぇ、この家から寂しいオーラが出てたからです」
「大きなお世話だ!」
「まっそういう訳なんで、おじゃましまーす♪」
「何でだよ!」
「もぉいちいち細かい事気にしちゃ駄目ですってば。そんなんだから彼女が出来ないんですよ?」
「だから大きなお世話だ!」
「とにかく今日からお世話になるんでよろしくお願いしますね」

サンタ少女から予想外な一言が飛び出した。
コイツ今何て言った?
靴を脱いで部屋に入ろうとする少女の肩を掴む。

「ちょっと待て、お前『今日からお世話になる』って言ったのか?」
「はい言いましたよ」
「とっとと帰れ」
「えー何でですか!」
「当たり前だろう!何で見ず知らずの人間を家に上げてお世話をしなくちゃ駄目なんだ!」
「見ず知らずの人間じゃありません!見ず知らずのサンタです!」
「同じだ!」
「同じじゃないです!コハルはサンタなんですから!そ、そりゃまだ見習いだけど……」
「見習いだったらこんな所でサボってないでちゃんとバイトしてろ!」
「サボってませんよ!っていうかバイトなんかじゃないです!今回の試験を終えてやっと本物のサンタになれるんですから!だからコハルが本物のサンタになれるかどうかは今回に掛かってるんです!」

コハルと名乗るサンタ少女は意味不明なことを早口でまくしたてる。
試験が終れば本物のサンタになれる?
見た感じ高校生くらいだが、頭がオカシイとしか思えない。
確か本当にサンタ試験なるものがあったはずだが、この少女の言ってるのはそれとは違う感じに聞こえる。

「なぁ」
「理解してくれましたか?」
「あぁ十分理解したよ。良い病院紹介するから今すぐ行ってこい」
「全然理解してないじゃん!」
「ふぅやっぱアンタ一人じゃ駄目だったか」

突然背後で声がしたので振り向くと、そこにはコハルと同じようにサンタの格好をした少女が立っていた。

「リサさん!」
「誰だお前!っていうかどこから入った!?」
「突然お邪魔してしまい申し訳ありません。私はリサと言う者です。見ての通りサンタクロースをやっています」
「アンタもかよ……。なぁこういう言い方するのもなんだけどアンタら頭大丈夫か?」
「それが普通の反応だと思います。ですが私達は正真正銘本物のサンタクロースなのです。ただこの子はまだ見習いですが」
「………ほぉ、だったら本物のサンタだという証拠を見せてもらおうじゃないか」

自分でも馬鹿なことを言ってると思う。
サンタなんて実在するはずがない。
そんなの今日日小学生だって知っている。
なのに何故か自称サンタの少女達の戯言に付き合ってみても良いと感じはじめていたのだ。

「分かりました。表に私が乗ってきたソリが停めてあります。それをご覧になられれば信じて貰えるでしょう」

正直、ソリがあったからどうしたと、その時は思っていた。
何故ならソリがあったからと言って、本物のサンタだという証明になならないからだ。
だが俺のその考えはあっという間に覆されることとなる。
ソリには二匹のトナカイが繋がれていた。
いや、ただトナカイが居ただけではまだ信じなかっただろう。
だが、トナカイに繋がれてるソリに乗り込んだリサという少女が空を飛んだのを見せられては信じざるを得なかったのだ。

「マ、マジかよ……夢とかじゃないのか?」
「驚くのも無理はありません。この世界でサンタは想像上の人物だと思われていますから」
「じゃあ君も本当にサンタクロースなのか?」
「そーでーす!あっ見習いですけどね」
「えっと、その見習いってのは一体?」
「ここからは私が説明しましょう」

ソリを地面に着け、リサというサンタは再び俺の前に立った。

「私達サンタクロースの一族は16歳の誕生日を迎えた年、一人前のサンタクロースになるべく試験を受けなければなりません。その試験の内容というのは地上に住む人間に仕えるというものなのです」
「人間に仕える?」
「そう、二週間人間に仕え、生活を共にし願いを叶える。それが試験終了の条件であり、その条件をクリアした者が晴れて一人前のサンタクロースになれるのです」
「その願いってのはどんな願いでもってことなのか?」
「条件はあります。私達は魔法使いというわけではないので、あくまで物理的に可能な願いに限ります」
「物理的に可能な願い、つまりは死んだ人間を生き返らせるとか、それこそ魔法を使えるようになりたいって類の非現実的な願いは不可能ってことだな?」
「そうです人の生き死に関する願いは不可です。物理的には可能ですが誰かを殺して欲しい等の願い、人類の歴史を大きく左右する願いも不可です。極端な例を言えば世界制服をしたい等は叶えられません」
「つまりはあくまでささやかな願いに限るってことか」
「そうですね、程度の差はありますがそう理解して頂いて良いと思います」
「ところで質問なんだが、試験を終えて一人前にサンタクロースになったらどうなるんだ?」
「もちろんクリスマスの日にプレゼントを配って回りまーす」

何となく予想はしてたが、当たり前だといった感じでコハルは笑顔で言い放つ。

「いや、しかしクリスマスのプレゼントは親が買って与えてるってのが常識だろ?本当にサンタクロースが来て配ってるなんて聞いた事がない」
「それは親達に自分達が買って与えたのだと思わせているからです」
「思わせる?」
「そうです、先程私達は魔法使いではないと言いましたが、人間の記憶操作、これが私達に唯一与えられた魔法に近い能力で、私達の存在を知られないようにする為の力なのです」
「知られちゃマズイのか?」
「えぇ、この世の中は時として常識で計れる以上の能力を持った者は虐げられる傾向にあります。超能力というモノが今ほど受け入れられていない時代、その力を持った人間は迫害されたと聞きます。それと同じなのです。まして一年に一回、無条件でプレゼントを配って回る存在の我々サンタクロースは恰好の餌食でしょう」
「でもちょっと待て、こうして試験ということで人間に仕える見習いサンタってのは今までも沢山いたってことだろ?君だってかつてはそうだったはずだ」
「ええその通りです。しかしサンタクロースが実在するという事実が人間達に知れ渡る心配はありません。何故なら試験を終えた後、その人間の記憶からサンタクロースと出合った事実を消去しているからです」
「親達の記憶を操作するのと同じってことか。でもだったら空想とはいえサンタの存在が世に知れ当たってるのは何故なんだ?」
「それは長いサンタクロースの歴史の中で僅かな数ですが例外が発生したからです。その場合人間からサンタクロースに関する記憶が消えることはありません」
「その例外ってのは?」
「申し訳ありませんがそれが何かはお教えできません。ですがその例外が発生したことにより、空想という形でサンタクロースの存在が世に知れ渡ったのです」
「ふーん。まぁつまりその例外が起こらない限り、二週間後俺は君達の存在を俺は忘れてしまうってことか」
「その通りです。それと本当にサンタクロースが居ることを他の人間に話したら、願いが叶えられる前でもその時点で記憶が消去されてしまいますので気をつけてください」
「分かった。でも話した所で誰も信じないだろう?」
「ええ、ですから正確にはこの子がサンタクロースだという事実を他の人間が心から信じたらということです」
「なる程ね。だがさっき空を飛んだり、こうしてサンタの格好で外に居るのは問題無いのか?普通に人に見られると思うんだけど」
「そこはご心配無く。今この空間には特殊なフィルターが掛かっていて私達サンタの姿は他人から認識出来ません」
「便利なもんだな。あれ?私達サンタのって言ったか?」
「そうです」
「じゃあ俺の姿や声は普通に認識されるってこと?」
「ええ」

ってことは他人から見たら俺が一人で喋ってるだけの危ない人間に見えるってことじゃないか……。
そういうことは早く言って欲しいもんだ。
だが気になる点がまだあったので極力声を抑えて訊いてみることにした。

「サンタってのは全員君達みたいな若い女の子なのか?」
「いいえ、男性もいますし、必ず試験で合格して本物のサンタクロースになれるわけじゃないので、年齢が高い人もいます。確か今年は48歳で試験を受けてる男性がいましたね」
「そ、それはなんというか辛いものがあるな……」
「ええ、50歳までに合格しないと一生本物のサンタクロースにはなれないのでその方も必死でしょう」
「正念場ってやつか……。あとそれと、試験を受ける時に仕える人間ってのはどういう基準で決めてるんだ?場合によっちゃその人間が悪い人間で酷い目に合う可能性だってあるだろ?」
「そこは綿密な調査をした上で、危険が無い人間を選んでいます」
「つまりは俺は危険無しと判断されたってことか」
「あと、恋人がいない寂しい人ってことですねー」
「………」

先程も聞いた台詞をコハルは再び言い放つ。
しかも全く悪びれた感じも無い満面の笑顔でだ。

「コラ!余計なこと言わないの!本当のことでも言って良いことと悪いことがあるのよ!」
「ご、ごめんなさい」
「………」

しっかりした雰囲気だったけどリサも結構抜けてる所があるようだ。
ある意味コハルに言われるより傷ついたぞ。

「とにかく今日から一週間、この子のことよろしくお願いします」
「一応確認しておくけど拒否権はあるのか?」
「ありますけどその場合この子は自動的に今年は不合格となります」
「そうなんです!お兄ちゃんに断られたらサンタになれないんです!だから断っちゃ駄目!断ったら化けて出るんだから!」
「誰がお兄ちゃんだ!っていうか何で化けるんだよ。死ぬわけじゃあるまいし」
「コハルにとっては死ぬも同然なんです!」

コハルは物凄い必死な形相で俺に詰め寄る。
何でこんなに必死なんだ?今年で48歳の見習いのオッサンサンタよりマシだろうに……。

「わ、分かったよ、断らないからそんなに顔を近づけるな!」
「本当ですか!?嘘じゃないですよね?嘘付いたら舌引っこ抜きますよ!?」
「嘘じゃないってば」
「やった~!リサさんやりましたよ!」
「はいはい、良かったわね」
「ふぅ何かどっと疲れた気分だ」
「それでは私はここで失礼します。色々と手の掛かる子ですけどよろしくお願いしますね。ほらアナタからもちゃんとお願いしなさい」
「よっろしくおねがいしま~す♪」
「了解」

リサは深く一礼をすると再びソリに乗って空の彼方へと消えていった。
やっぱ夢じゃなかったんだな、ありゃマジにサンタだ。

「それじゃあ早く部屋に入りましょう?さっきから寒くて凍えそうなんだもん」
「はいはい分かったよ。でも寒がりなサンタってのも変な感じだな」
「だってまだ見習いだもーん」
「そういう問題か?」

こうして見習いサンタのコハルとの奇妙な生活がスタートした。
普通に考えれば、たった二週間とはいえ可愛い女の子と一緒にいられるのだから悪い話ではない。
しかも願いを一つ叶えてくれるというオプション付だ。
だからこの非常にレアな体験を思いっきり楽しんでやろうと思った。
そう、最初はそう思っていた。
しかし……

「うぅん、もうお腹イッパイだよぉ。キャハハ、くすぐったぁい、やだぁ、やめてぇ……」
「………」
「だから駄目だってばぁ、そんなとこ舐めちゃ駄目だよ、もぉエッチなんだからぁ……」
「!!!」

眠れん!!!
一体どんな夢を見てるんだ!?
隣りで若い女の子が寝てるという状況は、彼女いない暦=年齢の俺には非常に酷だった。

「いやだぁ、もぉ……キャハハ…だぁめだよぉ……もぉルイ君お手!次はおすわりしなさーい!」

犬の夢かよ!っていうか最初お腹イッパイって言ってなかったか?

「だからお腹イッパイなんだってばぁ……ルイ君のバカぁ……」
「ふごぉっ!!!!!」

寝返りをうったコハルの手が俺の顔面にヒットする。
っていうか、だからどんな夢なんだ?ま、まさか犬を食べてるわけじゃないよな?

「……お兄ちゃん…メリークリスマース…」

………俺、二週間も正気を保てるのだろうか?

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この記事へのコメント

2009年09月23日 10:44
初コメントです!失礼します。

小説書かれてるんですね!
しかも見習いの小春がかわいすぎですw
まだこの1話しか読めていませんが続き気になるので2話3話と読みます!
楽しみにしてます♪