”Hello!Days”第7話、『二人の気持ち』

俺は越谷の安い挑発に乗ってしまい勝負する事となってしまった。
愚かにもマラソンにも関わらず、短距離走並みの全力疾走をしてしまっている訳である。
しかし当然のことながらあっという間に体力の限界を迎えてしまい、最初はトップだったものの、あっという間に最後尾になってしまい、クラス一体力がなくガリガリに痩せている日陰影吉と、アニメオタクで太っている宅山真理男にさえ抜かれる有様で、2人とも正にカメのようなスピードだ。
そんな俺達を、恋次が追い抜き様にこう言った。

「こうなるのは分かりきってただろうが。馬鹿な奴らだ。じゃあ俺は先に行くから、のんびり来いよ」

恋次の奴、気付いてたら先に言えっての……まぁ俺も薄々こうなることは予測はしてたのだが………。

「ど……どうした古羽……も…もう終わりか……」
「お……お前こそ……そろそろ負けを……み…認めろよ……」
「…そ…その言葉……そっくり…返して…やるぜ……」

まったくもってつまらない意地の張り合いである。
冷静に考えればこんな勝負なんてやる必要のない無意味なものである。
だがそんなふうに割り切る程、今の俺は冷静ではないし大人でもなかった。
とにかく越谷にだけは負けたくない、そんな思いが俺の中には存在していたのだ。

「……おい古羽」
「…何だよ」
「……小春ちゃん…お前の何だ……」
「ハァ!?」

突然小春のことを聞かれ、思わず間抜けな声を出してしまった。

「好きなのか?」
「な、何でお前に答えなくちゃならねぇんだよ」
「良いから答えろ」

俺は少しの間考えた。
俺にとっての小春、あの時何であんなにもイライラして、越谷に喧嘩を吹っかけるようなことをしたのか、その理由を。
そして俺が出した答えは………

「わかんねぇ」
「ハァ!?」

その答えが意外だったのか、今度は越谷が間抜けな声を出す。

「わ、分かんねぇって何だよ!誤魔化さないでちゃんと答えろ!」
「別に誤魔化してなんかいねぇよ。本当に分かんねぇんだ。まぁ好きか嫌いかって言ったら好きだし、大事な存在ではある。だけどそれはどういう意味での好きなのかは分からない。ガキの頃からずっと一緒で、傍にいるのが当たり前で、言ってしまえば空気のような存在なんだ。光井の奴に言わせれば小春は俺にとって妹みたいな存在みたいだけどな」
「………ぷっ…あはははははは」

何が可笑しかったのか分からないが、越谷は突然笑い出した。

「ど、どうした、体力の限界で気が狂ったのか?」
「くっくっくっ…めんどくせぇなぁお前ら……」
「ハァ!?何意味分かんねぇこと言ってんだよ」
「まぁ気にするな。それよりそろそろこの勝負の決着といこうじゃないか」

越谷に言われて気付いたが、いつの間にかゴールまで数百メートル辺りまで来ていた。

「よし、良いだろう、どっちが勝っても恨みっこ無しでいこうぜ」
「あぁ」

俺達は再び走る速度を上げる。
体力なんて当に限界を迎えていたが、最後の力を振り絞り全力で走った。
そして………

「ハァハァハァハァ………きっつぅ……もう体力の限界………」
「……し、死ぬ……うっぷ…吐きそう……」
「…は、吐くなよ越谷……お前に吐かれたら貰いゲロしちまう……」

俺達は校庭に倒れこみ空を見上げる。
まだ春先だというのに、体からは大量の汗が滝のように流れていた。

「中々やるじゃねぇか古羽」
「お前こそ」
「……ところでどっちの勝ちだ?」
「さぁ?」
「さぁって何だよ」
「引き分けで良いんじゃね?」
「それもそうだな、あははははは……って、わき腹いてぇ……」
「あはははは……鍛え方が足りねぇんだよ……情けねぇ奴め……」
「お前だって…わき腹押さえてんじゃねぇかよ……」
「これは生理通だ」
「ばーか…あはははははは……」
「あはははははは……」

俺達は互いに笑い合った。
初めて会った時のいざこざが嘘だったかのように。

「お前達やっと戻ってきたか」

突然の声に視線を向けると恋次が俺達を見下ろし呆れたような表情を見せていた。

「よ、よう、出迎えご苦労、我が友よ」
「ばーか、で、勝負の結果はどうだったんだ?」
「それは依田尾の想像に任せるぜ」
「まぁ別に良いけど。それよりお前らが下らない勝負してる間に小春が怪我をして大変だったんだぜ」

予想外の名前に俺は思わず恋次に掴み掛かる。

「小春が怪我ってどういうことだ!?大丈夫なのか!?」
「あぁ体育の授業で怪我したみたいで今は保健室で……」
「小春!!」

恋次が何か言い掛けてた気がするけど、俺はそれを聞き終わる前に保健室に向かうのだった。


    ◇


「小春!!」

俺はノックをするのも忘れ保健室へ飛び込んだ。
すると中にいた保険医の里田先生と小春と光井が何事かという顔で俺の方を凝視する。

「ちょっと何ですか!ノックもしないで」
「す、すみません慌ててたもので……」
「一体何をそんなに慌ててたっていうの」
「い、いや、あの、小春……久住が怪我をしたって聞いて……」
「怪我って言ってもただの突き指やで?」
「へっ?突き指?」

光井がきょとんとした顔で包帯の巻かれた小春の手を指さす。
そしてすぐにニヤっとした表情を見せ、いつもの人をからかうモードへと突入する。

「そんな慌てるほど小春のことが心配やったんやねぇ、たかが突き指だってのに」
「ちがっ!恋次の奴が小春が怪我したって言うから!」
「ちゃんと最後まで聞かないで走り出したのは誰だ?」

その声に振り向くと呆れ顔の恋次と、何故かニヤニヤしてる越谷の姿があった。

「れ、恋次テメェ!紛らわしい言い方しやがって!!」
「だから、最後まで話を聞かないお前が悪いんだろうが!」
「だ、だって、怪我をして大変だったなんて言われたら、誰だって大怪我かと思ってしまうだろうが!」
「それで俺との勝負でで体力を使い切ってたにも関わらず、全力疾走してしまったってわけか」
「いやだから!……っいってぇ~~~~~~~!!!!」

安心して気が抜けたのか、突然足に激痛が走り俺はその場にしゃがみ込んでしまう。
考えてみれば当然のことで、俺はついさっきまでマラソン勝負の疲れで立ち上がることも出来ずにいたのだ。

「ちょっと大丈夫!?ってあらぁこれは肉離れを起こしてるわね」
「げっ!マジですか!?ってその事実が分かったらもっと痛くなってきた…いたたたたたっ!!!」
「アホやなぁ無茶するからやで」
「しょ、しょうがねぇだろ!っていうか助けろ!イテェんだよ!」
「愛佳には無理や」
「………」

その時、一人ずっと無言だった小春が近づき、しゃがみ込んで俺の足にそっと手を当てた。
そして声を押し殺し涙を流す。

「お、おい、お前何泣いてるんだよ」
「ゴメンね、雅貴ゴメンね……」
「な、何謝ってんだよ、これは俺が勝手に勘違いして、自分の体力の限界も考えずに行動した結果なんだからさ」
「……ううん、そうじゃないの、そうなんだけどそうじゃないの……」
「なに訳分からないこと言ってんだっての。それより俺の方こそゴメンな。お前をいっぱい傷つけた。最低だよな、本当にゴメン……」
「うえぇぇん、まさたかぁ……」

小春が俺に抱き付き、今度は声を張り上げ泣き出した。
それを見た里田先生は口をあんぐりと開け驚いた表情を見せる。
他の連中はというと、安心したような嬉しそうな表情でその光景を見ていた。
そして俺はそんな状況に困惑しながらも、子供をあやすように小春の頭をそっと撫でるのだった。


     ◇


「先生、大丈夫ですってば」
「駄目です、肉離れは癖になるんだから、念のために大事を取ってアナタは保健室で休んでいなさい」

肉離れはだいぶ回復したのだが、俺は里田先生に無理やりベットへと寝かされてしまった。
教師公認で授業をサボれるのだから普通なら喜ばしいことなのだろうが、せっかく小春と仲直り出来たのに呑気に保健室で寝てたくなかったのだ。
しかし、そんなことはとても恥かしくて言えないため、俺はただ無駄な抵抗を試みていたのだった。

「いやでも、別にこの後何か運動をするわけじゃないんだし……」
「駄目です」
「そうやで?アンタの体はアンタだけのものやないんやからな」
「何処の妊婦だ!俺の体は俺だけのものだ!!」
「とにかく古羽くんはゆっくり休んどくことや。今や小春より重症になってもうたんやからな」
「そうだよ雅貴。放課後迎えに来るから良い子で待ってるんだよ?」
「俺はお前の子供か!」
「はぁいちゃんとママの言うことを聞くんでちゅよ僕ちゃん?」
「えぇいやめい!」
「はははっ、やっぱこの漫才が無くちゃな。これで毎日退屈しなくて済むぜ。雨降ってジジイ固まるってやつだな」
「ジジイが固まってどうする!それを言うなら雨降って地固まるだ!」
「まぁとにかくお前は大人しく寝てろよ。でもおねしょはするんじゃねえぞ?あっそれは小学校3年生で治ったんだっけ?」
「なっ!お前何でそれを!?」
「あっ……」
「…小春……犯人はテメェか……」
「あはははは……何のことかなぁ?」
「とぼけても無駄だ!このことを知ってるのはお前以外には恋次と里沙ねえしか居ないんだぞ!」
「あははは…雅貴くん…そんなに怖い顔したら嫌だなぁ………」
「こぉはぁるぅ……」
「ご、ごめんなさぁ~~~い!!!」」

小春はそう言い残すと一目散に保健室から逃げ出していった。
それと同時に里田先生もクスクス笑いながら用事があるからと保健室を出て行く。
まさか他の先生に言いふらす気じゃないだろうな………。

「まったく小春め余計なことを……」
「へぇアンタにそんな秘密があったとはねぇ…こりゃ良いこと聞いたわ」
「……お前このネタでしばらく遊ぶつもりだろ?」
「そんなの当たり前田のクラッカーやん。こんな最高のネタ使わんでどないせっちゅうねん!しばらくっちゅうか卒業まで使わせてもらうから覚悟しとき」
「……最悪だ………」
「ま、頑張れよ雅貴」
「うるせぇ!お前らもさっさと教室戻りやがれ!!」

俺の怒鳴り声にケラケラ笑いながら光井と恋次は保健室を出て行く。
そして一人残された越谷は俺達のやり取りに多少困惑しながらも、何処か楽しそうな表情を見せていた。

「ははははっお前ら面白れぇなぁ」
「笑いごとじゃねぇよ!誰のせいでこうなったと思ってるんだ!」
「……なぁ古羽」
「何だよ!お前も早く教室に戻れ!」
「小春ちゃんもお前と同じこと言ってたぜ」
「はっ?」


………
……



「ごめんね越谷くん泣いちゃったりして。びっくりしたよね?」
「まぁちょっとね。でも古羽が羨ましいかな」
「えっ?」
「だってさ、泣いちゃうくらいアイツのことが大切だってことだろ?だから羨ましいよ」
「……うん、雅貴とは小さい頃からずっと一緒で、大切な人だから。本当は喧嘩なんかしたくないし、早く仲直りがしたいよ」
「やっぱ好きなの?」
「好きだよ、だって幼馴染だもん。っていうか雅貴って私の弟みたな感じだしね」
「いや、そういう意味じゃなくてさ……」
「えっ?じゃあどういう意味?」



……
………


「小春め……誰が弟だ……」

小春に弟だと思われていたのは釈然としないものはあったが、お互いに大事な存在と思っていることが分かり、気分は晴れやかだった。

「まぁお互い大事に思ってるけど、そこに恋愛感情まではあるか分からないってわけだ」
「それがどうかしたのかよ」
「小春ちゃんのこと諦めたわけじゃないからな。お前がグズグズしてると俺が奪っちまうから覚悟しとけよ」
「……ふっ精々頑張んな」
「何だぁその余裕の態度は?」
「言っとくけどアイツを落とすのは簡単じゃねぇぞ?お前も気付いたと思うけど、アイツ恋愛事に関しては無頓着っていうか無関心だからさ。お前のことも良い友達くらいにしか思ってないからな」
「分かってるよ。だからこそのライバル宣言だ。それと二度と小春ちゃんを泣かせるんじゃねぇぞ!今度泣かしたら承知しねぇからな!」
「オッケー、ちゃんと肝に銘じとくよ」
「まぁとにかく今日はゆっくり休でろ古……雅貴……」
「あぁサンキュー、利也……」

俺達は初めて互いを名前で呼び合った。
越谷、いや利也とは色々あったし、正直、恋のライバルってのはピンとこないけど、良い友達にはなれそうだ。
これからの学園生活が更に楽しくなる予感を感じた昼下がりだった。







【次回予告】

やっと落ち着いた高校生活が送れると思ったのもつかの間。
一週間以上も為りを潜めていたアイツが遂に行動を開始する。
何で俺ばっかりこんな目に合わなくちゃ駄目なんだ……。
その理由を誰か俺に教えてほしいものだ。

次回、”Hello!Days”第8話、『江武丸史章の兆戦』

本当にこの学校の生徒会は大丈夫なのだろうか……

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