”Hello!Days”第6話、『男の意地』

小春との喧嘩から一週間が過ぎた。
最初の頃は俺の方がアイツを無視したりと、どちらかというと陰鬱な喧嘩だったのがここ数日はそれが無くなった。
それは良い傾向ではあるのだが、決して仲直りをしたわけではない。

「着いて来ないで!」
「お前こそ着いて来るな!」
「着いて来てるのはそっちじゃん!」
「そっちだろ!」
「アンタ達いい加減にしなさい!行き先が同じなんだから仕方ないでしょう!」

里沙ねえが大声を張り上げて怒るのは当然のことだ。
何故なら俺達は学校への通学路を歩いてるのだから。

「あ~あ、何で朝っぱらから小春なんかの顔を見なくちゃいけないんだよ」
「それはこっちのセリフ!嫌なら先に行けば良いじゃん!」
「俺は里沙ねえや恋次と一緒に登校したいんだよ!」
「小春だってそうなの!雅貴は邪魔だからどっか行ってよ!」
「邪魔!?てめぇいま邪魔って言ったか!」
「言ったけど?でもそれが何か悪かった?そりゃあごめんなさいねぇ♪」
「邪魔なのはてめぇの方だ!朝からキンキンでかい声出しやがって!鼓膜が破れたら慰謝料請求するからな!」
「ばっかじゃないの?こんなんで鼓膜が破れるわけないじゃん!もうちょっと常識ってものを学んだ方が良いんじゃないの?」
「はん!てめぇの口から常識なんて言葉が出るなんて世も末だぜ!」
「何よ!雅貴の馬鹿!」
「小春のオタンコナス!」

売り言葉に買い言葉、これじゃ子供の喧嘩以下だ。
周りには登校中の生徒が何人も居るにも関わらず、俺達の低レベルな口喧嘩は留まることを知らない。
一週間前までは目立たず平穏に過ごしたいと思っていた俺だが、今は自ら目立つ行動を取ってしまっている。
そんな俺達に我慢の限界に達した里沙ねえが再び大声を張り上げた。

「だからいい加減にしなさいって言ってるでしょう!下らない喧嘩なら家に帰ってからにしなさい!」
「そんなのノーサンキューだっての。何で家に帰ってまで小春の顔を見なくちゃ駄目なんだよ」
「小春だってそうだもん!雅貴の顔なんか見たくないよーだ!ベロベロベーだ!」
「はぁ、頭が痛くなってきた……何なのよこの子達………」
「もう放っておけって里沙ねえ、今のこいつらには何を言っても無駄だよ」
「でもねぇ、私にだって年長者としての立場もあるし、このまま見過ごすわけにもいかないのよ」
「あははは、大変だなお母さんも」
「やめてよ、こんな手の掛かる子達の母親になったら私の身が持たないわ」

里沙ねえは心底疲れたといった感じで深い溜息を漏らすのだった。


     ◇


午前の授業が終わり昼休みとなった。
うちの学校は学食と購買があり、各々仲の良い者同士好きな方で昼食を取っている。
とはいえ、全校生徒の半数は弁当持参といった感じで、やはり同様に仲の良い者同士で机を並べて食べているのだ。
俺は気分によって変えるので特に決まってはいないが今日は弁当だ。
ちなみに俺の家は母親が料理が不得意で、昔から俺や親父が担当していた。
しかしその親父も去年から北海道へ単身赴任しており、ここ一年程は俺が一人でやっている。
そんな事を毎日やっていれば嫌でもその腕前は上がり、知り合いの女子連中より料理上手になってしまったのだ。

小春がピンクの巾着袋を持って席を立つ。
どうやら小春も今日は弁当のようだ。

「愛佳ぁ今日は天気も良いし外でお弁当食べよう?」
「あぁゴメン、今日寝坊して弁当つくれんかったから学食行こう思ってんよ」
「えーそうなんだぁ…」
「古羽くんと依田尾くんは弁当みたいやし三人で行ってきたらええわ」
「イヤ!」
「恋ちゃんは良いけど雅貴はイヤ!」
「………なぁアンタらいい加減に仲直りしい」
「イヤ!雅貴が謝ってくれるなら考えても良いけど、それじゃなきゃ絶対にイヤ!」
「でもな、古羽くんはあの性格やし、ここはアンタが折れて先に謝ればきっと古羽くんも謝ってくれるて」
「何で小春が謝らなくちゃ駄目なの?小春悪くないもん!っていうか最初に喧嘩した日に小春は直ぐ謝ろうとしたよ?なのに雅貴は小春を無視して全然聞いてくれなかったんだもん!なのに何でまた小春が謝らなくちゃ駄目なの?」
「まぁ確かにそうなんやけど……」

同じ教室の中で比較的席も近いため、嫌でも小春と光井の会話は俺の耳にも入ってくる。
他のクラスメイトも聴いてない振りをしながらも、しっかりと聞き耳を立てているに違いない。
しかしそれが分かっていながら、俺の口はついつい悪態を吐く言葉を発してしまう。

「あぁあ昼休みだってのにギャーギャーうるせぇ奴だな。弁当持ってとっとと外行けよ」
「ちょっアンタ!そんな言い方ないやないの!」
「えぇ言われなくてもそうします!そうだ越谷くん、小春と一緒に外でお弁当食べよ?」
「えっ俺?」
「小春……アンタよりによってなんちゅう相手を誘ってんねん……」
「ねぇ越谷くん、一緒に行こう?」
「俺は良いけど……古羽、お前は良いのか?」
「ふん、何で俺に訊くんだよ、二人で仲良く勝手に行けば良いじゃないか……」
「そうだよ、雅貴には関係無いんだから放っておけば良いんだよ」
「分かった、じゃあ行こうか」

小春と越谷は弁当を持ち教室を出ていく。
俺はその姿をあえて見ないようにした。
そんな俺に恋次と光井が話しかけてくる。

「なぁ二人で行かせて良かったのか?」
「良いも悪いも俺には関係無いことだろ」
「せやけど小春との喧嘩の発端になったんは越谷くんだったやないの」
「………」
「まったく、男の嫉妬はみっともないぞ」
「………やっぱ嫉妬なのかな?」
「それ以外の何物でもないだろ。まぁそれがどういう類の嫉妬かは別としてな」
「まっ古羽くんの場合、今はどっちかって言うと可愛い妹を取られるって感じやと思うけどな。でも越谷くん悪い人やないで?」
「あぁそれは分かってる」

そう、あの時、越谷に思わず喧嘩を吹っかけるようなことをしたが、アイツは決して悪い人間ではない。
だから、あんなことが無ければとっくに友達になり、恋次と三人でつるんでいたはずだ。
この一週間でそのことが十分理解できた。
だから既に越谷のことは関係無く、単に俺がつまらない意地を張ってしまってるだけ。
小春はあっさりした性格だから、俺が謝れば直ぐに元の二人に戻れるはずなのだ。

「………なぁ光井」
「なんや?悩みでも泣き言でも何でも聞いてやるで?友達が困ってる時に助けるのが友情ってもんや」
「学食行かなくて良いのか?この時間だと席空いてないかもしれないぞ?」
「あ~~ホンマや!アンタに構ってる暇なんか無いやん!愛佳がお昼食べれんかったら古羽くんのせいやからな!」

そう言い残し、光井は慌しく教室を出て行った。

「たった今、友情がどうとか言ってなかったかアイツ……」


     ◇


俺は久住と一緒に裏庭にやってきた。
ここはこの学校でも穴場的なスポットで、御丁寧にベンチまで設置してあり、ゆっくり弁当を食べるのには絶好の場所だ。
俺達は二人並んでベンチに越を下ろし、弁当を広げる。
しかし久住は俯いたまま一向に弁当に手を付けようとしない。

「…………」
「食べないの?」
「えっ…た、食べるよ、もうお腹ペコペコで死んじゃいそうだもん」

久住はそう言い弁当に箸を付けるが、やはりそこで動きが止まってしまう。
十中八苦、古羽のことを考えているのだろう。
一週間前、俺がきっかけで二人は喧嘩をしてしまった。
それが今日になっても続いており、やはり責任を感じずにはいられなかった。
そう、あの時俺の悪い癖が出てしまったのだ。
ぶっちゃけて言えば俺は女の子が大好きだ。
可愛い子を見ればテンションが上がってしまい、それがあの時の行動に繋がったのだ。

「古羽のこと考えてるんだろ?」
「ま、まさか、何で小春が雅貴のことなんか考えなくちゃ駄目なの。折角のお弁当が不味くなっちゃうよ」
「そう?」
「そうだよ!だいたい雅貴なんて自分勝手で意地悪で酷いんだから!小さい頃なんか雅貴のせいで何度も酷い目にあったんだよ?無理やり悪戯に付き合わされて、小春は悪いことしてないのに連帯責任だって一緒に怒られたりしたんだから!」
「へぇ楽しそうじゃん」
「楽しくないよ!いっつもとばっちりで迷惑掛けられてばっかりだったんだから!なのに最近はすっごく偉そうに小春に文句ばっかり言うんだよ?小学校三年生までおねしょしてたくせに生意気だよ!」
「あははそりゃ酷いな」
「でしょう?……でもね、優しい所もあって、小春がいじめっ子にいじめられてたら恋ちゃんと一緒にいっつも助けてくれてたんだ。「お前ら小春をいじめるなーー!」って」

久住はそう言うと昔を懐かしむように笑顔を見せる。
それは俺が彼女と知り合ってから見た中で一番の笑顔だった。
しかし次の瞬間、大きな目から一筋の涙が頬を伝った。

「あ、あれ?何だろ?何で涙なんか……おかしいよ、変だよ、何で小春………」
「久住?」
「ご、ごめんね越谷くん、泣くつもりなんか全然無かったのに、何か分かんないけど勝手に涙が出ちゃうよ……」
「我慢することない、泣きたい時は泣けば良いんだ」
「で、でも……」
「いいから泣けって」

俺の言葉が久住の限界まで達していた心の防波堤を決壊させたのか、今度は大粒の涙がポロポロと流れ落ちた。
それは留まることを知らず、次から次へと……。
そして、俺の胸に顔を埋め、まるで子供のように大声で泣き出すのだった。


     ◇


今日の五時限目の授業は体育だ。
女子は体育館でバレーボール、男子は最悪なことにマラソン。
はっきり言って飯食った後にマラソンなんて、生徒を虐待してるとしか思えない。
マラソンの時にありがちなのが、「一緒にゆっくり走ろう」と提案した奴はあっさりその相手を裏切りさっさと先に言ってしまうというもの。
おそらくそんなベタな展開が俺達の中でも何組かあるんじゃないだろうか?
っていうか俺が正にその状態なりそうなのである。
最初は恋次とのんびり走るつもりだったのだが………

「何だお前らやけにゆっくりじゃないか」
「お前に関係無いだろ」
「まぁいいさ、のろまなカメはカメらしくゆっくり来いよ。俺は先に行くからよ」
「……ちょっと待て」
「どうした?」
「誰がカメだ!人を馬鹿にすんじゃねぇ!」
「おい、やめろって。越谷も雅貴を挑発すんな」
「「お前は黙ってろ!!!」」
「……はいはい、っていうか何でこんな時ばっかり息が合うんだよ」
「「誰がこんな奴と!!!」」
「ぴったりじゃないか」
「コイツが俺の真似をしてるだけだ!」
「それはこっちの台詞だ!っていうか着いて来るんじゃねぇよ古羽!」
「テメェが着いて来てるんだろうが!」
「………あれ?デジャビュ?今朝もこんなやり取り見たような……」
「古羽!こうなったらどっちが先にゴールするか勝負しようじゃないか」
「ふっ面白れぇ!後で吠え面かいてもしらねぇからな!」
「テメェこそ今の内に負けた時の言い訳を考えておくんだな!」

負けてたまるか!コイツにだけは負けられねぇ!!
俺たちは一瞬視線を交わし、同時に走り出す。

「あんま無茶するなよぉ」

恋次の呆れた声が背後から聞こえていた。







【次回予告】

ひょんなことから始まった越谷とのマラソン勝負。
その中で俺は自分の気持ちと改めて向かい合うこととなる。
そう、俺にとって小春の存在はと何なのか……
そして小春にとっての俺の存在とは……

次回、”Hello!Days”第7話、『二人の気持ち』

アイツはやっぱ大切な存在なんだ……

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