”Hello!Days”第5話、『不思議な感情』

高校へ入学して三日目を迎えた。
たった二日しか過ぎていないというのに、慌しくて心が休まる暇が無かった。
そんな疲れからなのか今朝は寝坊してしまい、小春は俺を置いて先に学校へ行ってしまったようだ。
まったく、その疲れた原因の一つは小春だってのに薄情な奴だ。
だが寝坊といっても、普段より十五分遅く起きただけなので、登校時間には全然余裕があり、のんびり歩くことにした。
たまにはうるさい小春がいないのも良いかもしれない。

そういえば疲れた一番の原因である生徒会長は、あれから何も言っきていない。
結局あのライバル宣言は何だのだろうか?
まぁ考えても分からないし、あまり係わり合いにはなりたくないというのが正直な気持ちだ。
そんな事を考えながら歩いていると、あっという間に学校へと着いてしまった。
上履きに履き替え、自分の教室へと向かう。

「おはよう!」

教室のドアを開け、クラスメイトに挨拶をする。
しかし教室の中央に人だかりが出来ており、一人の生徒を取り囲み何やら盛り上がっていて俺の挨拶は見事にスルーされた。
ちょっとへこむぞこれは……。

「おはよう古羽くん」
「おっ光井おはよう。ところでアレは何だ?」
「あぁほら怪我で入学が遅れてた子が今日から登校してきたんよ」
「あぁ、確か米屋だか鍛冶屋だかって奴か」
「越谷やて!越谷利也くん!」
「そうそう越谷だ。で、もう怪我の方は良いのか?」
「良いから登校してきたんやないの?見た目にも全然平気そうやし」
「まぁそりゃそうだよな……でも確か……」

越谷利也、俺達と同じく今年この学校へと入学してきた新入生。
何事もなければ二日前に俺達と一緒に入学式を迎えていたはずだのだが、その前日に怪我をして入院したらしい。
しかもその怪我の理由が普通では有り得ないくらい間抜だったのだ。
聞いた話しによると川沿いの道を自転車で走っていた時、何故か土手をブレーキも掛けずに降りていき、そのまま川へ転落。
二十メートル程流されたところで自力で川岸に上がるも、残念なことに右腕を骨折していたという。
この話は越谷と同じ中学出身の奴から聞いたのだが、教室の中央でクラスメイトに囲まれている越谷の腕にはギプスの類のものは付いていない。

「きっと話しが勝手にでかくなってただけなんやないの?腕を骨折して二日三日でギプスもせんと登校してくるわけないやろ」
「常識的に考えればそうだよな。川に落ちたのは本当なんだとしても、せいぜい風邪でもひいてたってとこだろ」
「まっそんなところやろね」
「ってお前俺より早く来てたくせに聞いてないのかよ」
「だって私が来た時には既にあの状況だったんやもん」
「なる程ね……あれ?そういや小春は?アイツも先に来てたはずなんだけど」
「今日はまだ見てへんよ。あっ!あの子のことだから、もしかして間違って卒業した中学校へ行ったんと違う?」
「あはははは、そりゃないだろ?流石の小春でもそんなアホみたいな間違いはしないって」
「そりゃそうや、そんな漫画みたいな子おるわけないわな」

そんな馬鹿話を光井としていると、教室のドアが勢いよく開き、息も絶え絶えな小春が現れた。

「ハァハァハァ……間に合ったーー!あっ雅貴、愛佳おはよー!いやぁ失敗失敗、間違って卒業した中学校に行っちゃってたよー」
「………小春…お前……」
「おったな、漫画みたいな子が……」
「んっ?なぁに?」

我が幼馴染ながら期待を裏切らない奴だ……いや、この場合は裏切ったことになるのか?
まぁとにかく、小春よ……俺は明日からは寝坊しないと約束するから安心していいぞ。
そんな誓いを心の中で立てていると、突然誰かに押しのけられた。
ムッとしながら相手を確認すると、遅れてきた新入生、越谷利也だった。
そして小春の前へ歩み寄ると手を握り、目を輝かせながら自己紹介を始める。

「俺、越谷利也!10月23日生まれ天秤座のA型!君、名前は?」
「く、久住小春です……」
「小春ちゃんかぁ♪君にぴったりな可愛い名前だね♪」
「はぁ、どうも……」
「俺、他の奴らよりちょっと学校へ来るの遅れちゃったけど今日からよろしく!」
「よ、よろしく……」

物凄い勢いでまくし立てる越谷に、流石の小春も戸惑っているようだ。
それに何か知らんが俺としても面白くない。

「おい越谷、小春の手を離せよ!」
「んっ?誰お前」
「古羽雅貴、10月6日生まれ、天秤座のAB型、ちょっとお茶目な学級副委員長や!ちなみに身長と体重はシークレットな♪」
「お前が答えるな光井!っていうか名前以外は必要ねぇ!」
「アカン!アンタだけ越谷くんのデータを知っとるのは不公平やないの!」
「不公平じゃねぇ!何の勝負だ!っていうか話しが進まないからお前は黙ってろ!」
「何や、つまらんなぁ」
「……漫才は終ったか?で、結局お前、小春ちゃんの何?」

こ、この野郎…馴れ馴れしく小春ちゃんなんて呼びやがって……。

「お、幼馴染だ!文句あるか!」
「うわっ!逆ギレや!かっこわる!」
「うるせぇぞ光井!」
「で、その幼馴染さんが何でしゃしゃり出てくるんだ?」
「な、何でもだ!」
「それじゃあ理由になってないな」
「うぐっ…と、とにかく小春に馴れ馴れしくするな!」
「理由が無いんじゃ、はいそうですかって引き下がるわけにはいかないぜ」
「う、うるせー!」
「アカン、だんだんボキャブラリーが減ってきとる」

光井の冷静な突っ込みの通り、俺のボキャブラリーはどんどん貧困になってきてる。
っていうか何でこんなにもムキになってんだ俺は?
小春に言い寄ってくる男なんて中学時代までも何人もいたってのに。
俺がそんな自分でも理解不能な感情に悩んでいると小春が間に割って入って来る。

「こらっ!何で喧嘩するの!仲良くしなくちゃ駄目でしょ?」
「でも!」
「でもじゃないの!雅貴、越谷くんに謝って!」
「な、何で俺が!」
「里沙姉ちゃんに言いつけるよ!」
「うぐっ……」

何なんだ小春の奴……何で越谷の肩を持つような言い方をするんだよ……。
そのことが俺を更にいらつかせてしまう。

「勝手にしろ!」
「ちょっと雅貴!」
「あちゃぁ……こりゃ修羅場や……」
「何よー!雅貴のバカーーーー!!!」

今にも泣き出しそうな小春の声が教室に響いた。


     ◇


気がつけば放課後となっていた。
先程まで教室に数人いたクラスメイトも皆帰ってしまい、俺は一人教室でぼーっと窓の外を眺めていた。
その日はずっと気持ちがモヤモヤして、授業なんかは全くっていうほど耳に入らず上の空だった。
そうなった理由は火を見るより明らかで、今朝の小春のと一件が原因である。
あの後、遅刻ギリギリで教室へと滑り込んできた恋次が事の顛末を光井に聞き、心配して話しかけてきていたが、それすらも耳にいらずにいたのだ。
何であんなことになってしまったのか?もしかして嫉妬っていうやつなのだろうかか?だが今までこんな風に感じたことなど一度たりとも無かった。なのに何で今回は………。
そんな今まで感じたことのない不思議な感情が俺の胸を締め付け、色んな考えが頭の中を駆け巡るが、簡単に答えは出るはずもなく、頭が破裂しそうな気さえしていた。

今までだって喧嘩くらいした事は何度もある。
だが、いつも一時間もしない内にお互いにそれを忘れ、普通に遊んだり、笑い合っていた。
それが当たり前だと思っていた。なのに今回はそれが出来ず、あれから一言を口を利いていない。
いや、もっとも小春の方は何度か話しかけようとしてきてくれたが、俺はそれをとことん無視した。
つまりは俺がつまらない意地を張ってるのが原因であり、俺が一歩歩み寄ることをしないだけなのである。
そして、そんな俺の態度に対して小春は怒るわけでもなく、ただ悲しそうに俯いてしまうのだった。

「アイツのあんな顔、初めてみたな」

そんな独り言が口を吐く。
俺の知ってる小春は、いつも無邪気な笑顔で周りを明るく照らしていた。
もちろん怒ったり泣いたりすることもあったが、次の瞬間には何事も無かったかのように笑っていた。
俺はアイツほど笑顔が似合う奴を俺は知らない。
なのに、そんな小春が初めてあんなに悲しげな表情を見せた。
俺がアイツをそんな表情にさせてしまったのは明らかだが、今の俺はそれに対処できるような余裕は無かったのだ。

「何やってんだよ俺……普段はアイツのこと子供だって言ってるのに、俺の方がよっぽど子供じゃないか……」

再び独り言が口を吐いて出た。

「ほんまやで、アンタは子供や」
「手の掛かる幼馴染を持つと苦労するぜ」

教室の後ろの入口で声が聞こえ、振り向くと恋次と光井が立っていた。

「お前ら帰ったんじゃなかったのか」
「愛佳は友達ほっぽって帰るほど薄情な女ちゃうで?」
「右に同じく」
「光井、恋次………」

二人の優しさに思わず涙が出そうになったが、二人から視線を逸らしてそれを必死に耐えた。
安いプライドだが、そんな弱みをこいつらには見せたくなかったのだ。

「おっ?泣くのか?俺達の優しさに感動して泣くのか?」
「ば、馬鹿じゃねぇの?何で俺が泣かなくちゃならねぇんだよ!」
「我慢せんでもええねんで?泣くんなら愛佳の胸を貸したる!愛佳のおっぱい柔らかくてえぇ気持ちやで?」
「そ、そんなことできるか!っていうか女が軽々しくそんなこと口にするんじゃねぇ!」
「当たり前や、冗談に決まっとるやろ?本当にそんな事したら股間蹴り上げたるからな!」
「お前は自ら進んで短いスカートを履いてるくせに、ちょっとそこに目線がいっただけでスケベだの変態だの言う女子高生か!」
「おっ、少しは調子が戻ってきたみたいじゃないか」
「せやね、でもちょっと突っ込みが長いからもうちょい頑張らなあかんで?お笑いの道は険しいんや!」
「そんな道目指してねぇよ!」
「まぁそれにしても意外や、アンタ愛佳のことちゃんと女やと思っといてくれてたんやね」
「そりゃまぁ…そんな自己主張の激しいもん2つもぶら下られたらな…」
「いややわぁ見んといてぇ………ってそこかい!そこしか無いんかい!」
「あっ…いや…悪い…」
「まぁ小春や里沙ねえがペッタンコなだけに光井の胸は貴重だわな」
「………」
「アホかアンタ!何思いっきり地雷踏んでんねん!」
「わ、悪い雅貴……」
「……別に気にしちゃいないよ。なぁに明日になれば元通りさ」
「そ、そうだぜ、お前らがいつまでの喧嘩してるなんてあるわけないよな」
「せやね、アンタらなら絶対に大丈夫や」

強がりなんかじゃなく、その時俺はそう思っていた。
恋次や光井もそう信じ疑っていなかった。
しかし今回の件が解決するまでにはまだ少しの時間を要することになるのだった。







【次回予告】

小春と喧嘩をして一週間が過ぎた。
既に最初のきっかけは意味を成さず、ただの意地の張り合いになっている。
最近では向こうの方から喧嘩をふっかけてくる始末だ。
そんな中、俺は小春との喧嘩の発端となった越谷と勝負をすることになる。

次回、”Hello!Days”第6話、『男の意地』

負けられないコイツにだけは……

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この記事へのコメント

m。@risa
2008年11月12日 23:05
久しぶりに来てみたら┐(´m`)┌

江武丸史章って誰だよw
ぷにぷにとか愛ちゃんとかハーレムなんですか(ワラ
恋次の敗北かお豆と恋愛成就するかどっちかにしといてくださいw