”Hello!Days”第4話、『光井の陰謀……そして就任』

カーテンを開け春の暖かい日差しを体に受ける。
普段ならまだ布団の中で寝ぼけてるような時間だが、気付くと三十分も早く目覚めてしまった。
俺の家の右隣は小春の家で、俺達の部屋は丁度向かい合ってる形になってる。
ここ数年はなくなったが、小さい頃はお互い屋根を伝って互いの部屋を行き来したものだ。
小春の部屋の方を眺めてみるとまだ寝てるのかピンクのカーテンが閉められたままだった。

「アイツ足大丈夫かな?」

そんな独り言が口を吐くと同時にカーテンが開き、カーテンを開けた小春と不意に目が合った。
小春は眠そうな目を擦りながらも笑顔を見せ窓を開き手を振ってくる。

「おっはよー!珍しいね雅貴がこんな時間に起きてるなんて」
「まぁたまにはな、それより足の具合どうだ?」
「あっうん、もう大丈夫だよ。昨日はありがとうね」
「別に礼なんていらねぇよ」
「うん分かった、じゃあもう言わなーい!」

……うーむ、何て素直な奴なんだろうか。
普通ならここは『ううん、お礼くらい言わせてよ』とかな気がするのだが。
まぁそれが小春らしいって言えばらしいのだが。

「ねー雅貴、今日も一緒に学校行こうね」
「ああ」
「よーし、じゃあちゃっちゃと着替えますかー♪」

小春はそう言うとパジャマの胸のボタンに手をかける。

「ってちょっと待て~~~!!!」
「ん?なぁに?」
「着替えるならカーテンくらい閉めろ!」
「えー別に良いじゃん、誰が見てるわけでもないし」
「俺が見てるだろーが!」
「だって雅貴なら今更でしょう?小さい頃何度も一緒にお風呂入ってるんだし」
「そりゃそうなんだが、あの頃とは色々違うだろ!」
「?」

だ、駄目だこいつ、何も分かっちゃいない。
っていうか、昨日はおんぶされることは恥かしがったくせに着替えを見られる事は恥かしくないって、どういう思考回路なんだ?
こいつのこういう部分は未だに理解不能である。
だから俺はこれ以上言うのを諦め、自分の部屋のカーテンを勢いよく閉めるのだった。


     ◇


今日から本格的な授業も始まるというのに、小春のせいで朝っぱらから激しく疲れさせられてしまい溜息が漏れる。
それに気付いた恋次が声をかけてきた。

「どうした朝っぱらから辛気臭ぇなぁ」
「いやちょっとな」
「そういや朝早くから何か騒いでなかったか?」
「あぁ…あれね……」

小春がカーテンも閉めずに着替えようとした時のことを言ってるんだろう。
恋次の家は小春の家の真向かいだから、今朝の騒ぎも詳しい内容までは分からないまでも、当然のように聞こえてるはずだ。
ちなみに里沙ねえの家は俺の家の真向かい、つまりは恋次の家の左隣に位置する。
里沙ねえは朝が早く、最近は祖母との朝の散歩が日課になっているらしい。
だから幸いにも今朝の小春との一件があった頃は家に居なかったようだ。
もしあの時、里沙ねえが家に居たら、間違いなく追求されていただろう。
しかし今正にそのことを恋次に追求されているのだが、そんな事を素直に言えるはずもなく、どうやってお茶を濁そうかと考えてると……。

「小春が目の前でパジャマを脱ごうとしたら恥かしがって騒いでたの」

と、小春は隠すこともせずはっきり言い放った。
しかも微妙にニュアンスが間違ってる。

「えぇ~~~~~~!!!」

すると、いつの間にか現れた光井が大げさに驚きの声を上げる。
うむむ……よりによって今一番知られちゃいけない人間の耳に入るとは……。

「アンタらいつの間にそんな関係になっとったの!?」
「お前が俺より先に大人の階段を登るとはな……だが祝福するぜ!おめでとう!」
「ちっが~~~~~~う!!!!」
「んっ?大人の階段ってなに?それって何段あるの?呪いの十三階段?」
「学園七不思議か!!って話がややこしくなるからお前は黙ってろ!!」
「えー何それー!今日の雅貴冷たーい!昨日はあんなに優しかったのに!」
「き、昨日は優しかっただ!?」
「はぁ、古羽くんアカンよ?男なら最中よりも終わった後にこそ優しくせんと」
「お、お前、何とんでもない誤解してんだ……」
「五回もやったのか!?」
「うわぁ若いなぁ……あぁそれで今日疲れた顔しとるんやね」
「…………お前らひょっとして分かってって言ってるだろ?」
「あっバレた?」
「なんや、つまらんなぁ。そこはたとえ気付いても気付かん振りするとこやん」
「KYだな」
「KYやね」
「………」
「ねぇさっきから一体何の話をしてるの?」
「小春は知らんでえぇの。アンタは今のままでおるんやで?」
「……うん分かった、何かよく分かんないけど…」

疲れが更に何倍にもなった気分だ……。
何で俺の周りはこんなのばっかなんだ?
頼むからもっと普通の高校生活を送らせてくれ……。


     ◇


今日は一時間目からLHRで、クラス委員等を決めることになった。
担任の安倍先生がこれから決める役職の一覧を書いていく。
クラス委員長、副委員長、書記、美化委員、図書委員、風紀委員、飼育委員等のポピュラーなもの。
そして多少気が早いんじゃないかと思われる体育祭実行委員と学園祭実行委員……
これってもっと間近になってから決めても良いんじゃないだろうか?
他の委員は年中仕事があるが、この二つはそれぞれの期間だけだし。
まぁこの学校がそういう決まりなら、俺達生徒は大人しく従うしかないのだが……。

(まぁそれはともかく、俺は何をやろうかねぇ……あんまメンドーなのは嫌だから比較的楽なのが良いけど……。図書委員辺りは楽そうかなぁ?図書室で本の整理やカウンターに座って本の貸し出しをしてれば良いんだろうし。よし決めた!そうしよう!)

「じゃあ多数決を取ります。副委員長は古羽くんで良いと思う人」
「えっ俺?」

気がつくと俺以外の全員が手を挙げている。
っていうか副委員長って言わなかったか?

「うん、全員賛成ね。じゃあ副委員長は古羽くんに決定します」
「ちょっと待った!全員じゃないです!俺が挙げてません!っていうか何でそんな展開になってるんですか?」
「あら聞いてなかったの?それに多数決なんだからアナタ一人が挙げて無くても何の問題もありません」
「ふっふーん、立候補が誰もいなかったから愛佳が推薦しといてやったでぇ♪」
「お前、余計なことを……」
「とにかく多数決で既に決定したんですからもう決定は覆りません。頑張るのよ古羽くん」
「は、はい……」
「それとさっきも言ったように委員長と副委員長には自動的に体育祭実行委員と学園祭実行委員も兼任してもらいます」
「はぁ!?そんな話し聞いてないんですけど!?」
「さっきも言ったって言ってるでしょう!話を聞いてないアナタが悪いんです」
「うぐっ……」

な、なるほどそういうカラクリだったのか……。
確かにそれなら体育祭実行委員と学園祭実行委員も年中仕事があることになる。
だがそれって俺達の負担が物凄く大きいってことなんじゃ?

「安心していいわよ。別に貴方達に負担が全て圧し掛かるわけじゃないから。あくまで実行委員ってだけで、体育祭も学園祭もクラス一丸となって行うモノなんだからね」
「はぁ……ところで委員長は誰なんですか?」
「ふぅ呆れた、本当に全然聞いてなかったのね、大丈夫かしら……。仙石さんこんな子が副委員長だけどよろしくね」
「は、はい」

仙石と呼ばれた女子生徒が俺の方を向いて笑顔を見せる。
あの小さい子が仙石さんか。
自慢じゃないが俺はまだクラスの人間の顔と名前殆んど覚えてない。
一応昨日一人ずつ自己紹介をしてはいたが、たった一日で全員を覚えれるほど俺の脳は柔らかく出来ちゃいない。
まぁ殆んど奴が俺と大差ないんだろうが、俺の事に関しては昨日の生徒会長からの名指しの一件でクラス全員が、っていうか学校中が知る結果となった。
しかも昨日の放課後、小春をおぶって帰ったことも何人もの生徒が目撃していて、その事が俺を有名人にすることに拍車をかけていたのだ。
実は俺が朝から疲れていたのは何も今朝の小春との一件だけが理由じゃなく、昨日の件を何人もの生徒から質問攻めにあってたからでもあるのだ。

「じゃあここからは仙石さんと古羽くんに進行してもらいます。二人ともよろしくね」
「は、はい分かりました」
「……はぁい」


     ◇


「ふぅ、疲れた……」

LHRが終わり、俺は自分の机に突っ伏す。
何だか昨日の入学式からかけて疲れることの連続だ。
男の厄年はまだまだ先のはずだが、俺だけ何年も前倒しでやってきたんじゃないだろうか?

「お疲れさん」
「光井、てめぇその満面の笑みは何だ?誰のせいでこんな目にあってると思ってるんだよ」
「そんなんちゃんと話しを聞いてないアンタが悪いんやろ?多数決取る前にやりたくないって言わんから」
「それを言われると……」
「とにかく決まったもんは仕方ないんやし頑張り」
「くそぉ体育祭と学園祭でこき使ってやる!」
「お~こわ!でもそれって職権乱用ちゃうん?」
「ふっふっふっ馬鹿め、職権だろうかコネだろうか使える時に使わないでどうする」
「悪人や!悪代官の顔や!こんなのに副委員長やらせて良かったんやろか?」
「誰が悪代官だ!っていうかお前が推薦したんじゃねーか」
「そりゃそうなんやけどな」

光井は悪ぶれるもなく、おどけた表情を見せる。
小春もそうだが、こいつも俺の扱い方を、どうすれば俺が何も言えなくなるのか心得ているのだ。
しかも半分以上天然でやってる小春とは違い、こいつの場合ほ100%計算でやってるからタチが悪い。

「あの、古羽くんちょっと良いかな?」

不意に名前を呼ばれ振り向くと、そこには仙石みなみの姿があった。
緊張してるのか少し表情が強張っている。
彼女も俺と同様に推薦で委員長になったのだが、大丈夫なんだろうか?

「どうしたの仙石さん、何か様かな?」
「あっうん、改めて挨拶しておこうと思って。これからよろしくね」
「こっちこそよろしく。決まった以上は仙石さんの足を引っ張らないように一生懸命頑張るよ」
「そ、そんな、私の方こそ迷惑とかかけちゃうかもしれないし」
「じゃあ一緒に頑張っていこうよ、仙石さん」
「うん、あっ私のことは仙石って呼び捨てでいいから」
「えっ?でも知り合って間もない女の子を呼び捨てにするのはちょっと……なぁ?」
「なぁって、アンタ中学で初めて会った時から愛佳のこと光井って呼び捨てにしとったやん」
「いやお前はそんなイメージだからさ。仙石さんは、ほら大人しくて可愛いから呼び捨てしにくいっていうかさぁ」
「そんな…可愛だなんて……」

仙石みなみは頬を赤らめ照れた表情を見せる。
おっ!今まで俺の周りではあまり見たことのない反応だ。

「なんやそれ、愛佳だって可愛いやん!」
「こいつはこんなんだしなぁ…」
「アンタ失礼なこと考えてるやろ?」
「べーつにー」
「いんや絶対失礼なこと考えとる!愛佳を騙そうったってそうはいかんで!」
「仲が良いんだね。あの…もしかして付き合ってるとか?」
「あー無い無い、コイツだけはありえない」
「それはこっちのセリフやん。アンタ友達としてはおもろいけど男としては勘弁やね」
「そ、そうなんだ、良かった……」
「えっ何が?」
「う、ううん、何でもない……」
「おんやぁ?アンタもしかして?」
「な、何でもないから!じゃあまたね……」
「……何だありゃ?」
「さぁ?」

光井は何やら意味ありげな笑みを見せる。
だが訊いたところでこいつが素直に教えてくれるわけないので、それ以上考えるのを止めた。
それにしても俺がクラス委員になるなんて中学時代には考えられないことだ。

「まっとにかく頑張りますかね」

俺は窓の外に見える青空を見上げながらそう呟くのだった。







【次回予告】

また妙な奴が俺の前に現れた。
それは遅れてやってきた新入生。
しかもその理由が信じられないくらい間抜け過ぎる。
だが、そいつとの出会いが着実に何かを変えていくことになるのだった。

次回、”Hello!Days”第5話、『不思議な感情』

何で、何でこんなにイライラした気持ちになるんだよ……

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