”Hello!Days”第8話、『江武丸史章の兆戦』

小春との喧嘩も無事に終焉を迎え、俺はいつもの日常を取り戻した。
ずっと心の中にあったモヤモヤした感じが無くなったのだから、それ自体は良いことである。
しかし、これはこれで色々と問題がある気がするのは俺だけではないはずだ。

「なぁ小春……」
「なぁにぃ?」
「歩きづらくないか?」
「べつにぃ」
「でも人が見てるぞ?」
「それがどうかしたぁ?」
「………」

俺達は学校へ向かう通学路を歩いているのだが、俺の右腕に小春が絡み付き非常に歩きづらい。
そして小春の右腕にも同じように里沙ねえがいる。
つまりは小春を中心に俺と里沙ねえは腕を組まされているわけだ。

「なぁやっぱ歩きづらいってば」
「小春は全然平気だもーん♪」
「でもさぁ……里沙ねえからも何か言ってやってくれよ」
「諦めなさい」
「そんなぁ……」
「昨日までみたいに登校中ずっと喧嘩してるよりは全然マシよ。それに小春もしばらくアンタに甘えれなかったんだから大目に見てあげたら良いじゃないの」
「俺は小春の保護者じゃねぇっての」
「似たようなものでしょう」
「そうだよなぁ小春のお世話係は昔から雅貴だったからなぁ」

俺達の後ろを一人歩いていた恋次がからかうように言う。
まぁ間違っちゃいない気もするが、それだったら保護者の方がマシである。

「ねえねえ、恋ちゃんも腕を組もうよ」
「んなことを言ったってお前の腕は二本しか無いんだから無理だろう」
「恋ちゃんは雅貴と組めば良いじゃん」
「「誰が組むか!!」」

俺と恋次の声が綺麗に揃った。
まったく勘弁してほしい。この状況だけでも厄介なのに、更に野郎と腕を組んだなんてことになれば俺に関する変な噂が広がってしまう。
その状況を想像し身震いした時、何処かで誰かに見られている視線を感じ立ち止まる。
もっとも俺達に向けられる視線は通学途中の生徒達から何度も感じていたが、それとは違う、物陰からじっと見られているようなそんな視線だった。

「ちょっと何立ち止まってるのよ。さっさと行くわよ」
「…何か誰かに見られてる気がしてさ………」
「まぁこの状況だからな、さっきから沢山見られてるぞ」
「いや……そういうんじゃなくて…何ていうか盗み見られてるような……」
「えっ!それってスニーカーってやつ?」
「それを言うならストーカーでしょうが!で、何?そんな感じなの?」
「んー何となくだけどね」
「………」
「いや…きっと気のせいだよ。ゴメン、早く学校へ行こう」

里沙ねえが何か考えるような素振りを見せたため不安にさせないよう、俺はそこで話を打ち切り学校へ向かうことにした。
しかし一抹の不安は俺の中から消えることはなかったのだった。


     ◇


「よっしゃー!弁当やーーー!!!」
「おーーー!!お弁当♪お弁当♪」

午前の授業が終わり、昼休みに突入した。
今日は光井も弁当を持ってきたようで、可愛らしい巾着袋を鞄から出していた。
そして小春も必要以上のハイテンションで騒いでいる。

「アンタら何しとんの!こっちに来て一緒に弁当を食べるで!」
「ほら雅貴恋ちゃん越谷くん、こっちこっち。あっこの席借りるねー」

小春達は俺達三人に声を掛けながら、近くの机と椅子を5つ、ガタガタと動かし始める。
何でアイツらあんなにテンション高いんだ?小学生かよ……。

「おいおい、そんなに慌てなくたって弁当は逃げないぞ」
「アホかーーー!!!古羽雅貴!アンタはアホかーーー!!!時は金なり言うやろが!時間は無駄に出来へんのや!そんなんじゃ戦争には勝てへねんで!」
「誰と戦争をおっぱじめる気だよ」

利也が冷静な突っ込みをするが、おそらく光井は昨日の昼食のことを言ってるのだろう。
出遅れたせいで学食のテーブルは全て埋まっていたので購買のパンにしたのだが、それすらも出遅れた影響で”納豆キャラメルソースサンド”と”生クリームキムチパン”という考えた奴の神経を疑うようなゲテモノしか残っていなかったのだ。
そんなゲテモノを購入して教室へ戻ってきた光井は泣きながらパンを食べていた。

「とにかく早く食べよ?小春お腹ペコペコだよ」
「そうやで!食べれる時に食べとかないと人生負け組みやからな」
「何を大げさな……」
「アホかーーー!!!ってもうええわ。またアンタに構ってって愛佳のお弁当タイムを潰されたらかなわんからな」
「き、昨日のことは謝ったじゃねぇか……」
「食べ物の恨みは根深いんや」

コイツまだ根に持ってるのかよ……そりゃああんなゲテモノ食べたんだから恨み言の一つや二つ言いたい気持ちは分からないでもないけど………。

「今度何か奢ってやるから勘弁してくれ」
「ホンマ?それやったら許してやるわ。良かったなぁアンタら、古羽くんが好きな物何でも奢ってくやる言うてはるで」
「やったー!雅貴ありがとう!」
「悪いな雅貴」
「へぇお前ってそんなに気前の良い奴だったんだな。見直したぜ」
「えっ?誰もお前らにまで奢るなんて言って………っていうか好きな物何でもって……」
「いやぁやっぱ古羽くんはええ奴やわ」
「そりゃそうだよ!なんてったって小春の幼馴染なんだもん!」
「俺の幼馴染でもあるしな」
「俺と対等の勝負をした奴だしな」
「…………」

これは全員に奢らないと済まない空気になってきたようだ。
サヨウナラ…俺の今月のお小遣い………。
俺ががっくりと肩を落としうなだれてると突然教室のドアが乱暴に開かれた。

「たのもーーーーー!!!!古羽雅貴はおるかーーーーー!!!!」
「へっ?」

突然大声で名前を呼ばれ、俺はびっくりして声のした方に目を向ける。
そこには三人の女子生徒が立っていた。

「おったーーーー!!!絵里!さゆ!奴を確保するとよ!!!」
「「おーーーー!!!」」
「へっ!?確保?何?」
「悪いんだけどぉ大人しく着いて来てねぇ♪」
「はい?」
「大人しく言う通りにした方がいいよ。れいなを怒らすとこの学校に居られなくなるんだから」
「ちょっとさゆ!人聞きの悪いこと言わんといて!れいな達は頼まれて古羽を迎えに来よるだけやろ!」
「そうだよ。そんなこと言ったられいな可哀想じゃん」
「あのさぁ、元々これって絵里が頼まれた仕事でしょ?さゆみ達はそれに付き合ってるだけなんだよ」
「そうたい!なのに何で絵里が他人事みたいな顔してると!」
「それはそうなんだけどさぁ……」

突然現れ、訳の分からないことを言い出す三人の女子生徒。
リボンの色で二年生なのは分かるが、一体この人達は何者なんだろうか……。

「あのぉ先輩方、俺に一体何の用でしょうか?」
「うっさい!れいなに逆らうとこの学校におれんようになるとよ!」
「あっやっぱそうなんだ、さすが元ヤンキーだね」
「さゆぅれいなが怖いよぉ」
「そうだね絵里、れいなに逆らっちゃ駄目だよ?」
「うん」
「元ヤンちゃう!ボケてんのやから突っ込んでくれんとれいなの立場がないやろが!」
「あららこりゃ失礼しましたぁ」
「てへ♪さゆみ失敗しちゃった♪」
「アンタらとはもうやっとれんわ!」

何故か突然漫才を始める女子生徒三人。
弁当食べずに待ってんだから早く話しを進めてほしいのだが………。

「あははは、おもしろーい♪」
「何かウチらのノリに近いものがあるな」
「あの絵里って先輩可愛いなぁ」
「お前もそう思うか!恋次!!」
「利也お前もか!!」
「「おう!友よ!!」」

小春と光井は三人に妙な親近感を感じたようで楽しそうな表情を見せている。
そして野郎二人は絵里って先輩が好みのようで目を輝かせながら熱い握手を交わす。
っていうかお前ら紺野先輩と小春はどうした!誰でも良いのかよ!

「あのぉ、そろそろ本題に入ってもらっても良いでしょうか?」
「だからぁ君を呼んでる人がいるから迎えに来たんだってば!」
「感謝してよね。可愛いさゆみとそのお供がお昼休みを削ってまで迎えに来てあげたんだから」
「誰がお供と!」
「まぁ絵里達はさゆの”お友達”ではあるけどね………なんちゃって、あははははは」
「………絵里」
「相変わらずギャグが寒いよね」
「えぇ!面白いじゃん!!」

この人達はすぐに話題が横道にそれる傾向にあるようだ。
しかし俺を呼んでる人がいる?二年のこの人達が来るってことは少なくとも一年ではないはずだ。
だとすると、間違いなく二年か三年の先輩………。
先輩に呼び出されるようなことをした記憶は無いのだが一体誰が?…そんな心当たりは…………はっ!
い、いた………すっかり忘れていたけど一人だけ心当たりがあった……。
俺の頭の中には腕を組み高笑いをしている一人の男の顔が思い浮かんだ。

「えっと…もしかして俺を呼んでる人って………」
「おっと!ここでその名前を言わせるわけにはいかん!絵里!さゆ!」
「「ラジャー!」」
「うわっ!ちょっと!!」

俺は三人に両脇と足を持たれ、まるでお祭りの時の神輿のようにワッショイワッショイ言いながら教室から連れ出された。
そんな俺の姿をクラスメイトの大半は呆気に取られ見ていたが、光井達四人は爆笑して見送るのだった。


     ◇


俺が三人に連れて来られた場所は生徒会室だった。
そして予想通り、目の前には生徒会長、江武丸史章が腕を組み直立不動で立っていた。

「会長!連れてきました!」
「うむ亀井くんご苦労。道重くんと田中くんも付き合わせて済まなかった」
「いえ会長、気にしないでください」
「そうたい!結構面白かったし気にせんでよかとね」
「そう言ってもらえるとありがたい」
「やっぱりアナタでしたか生徒会長」
「うむ、よくぞ私の呼び出しに答えてくれた!」
「呼び出し!?これのどこが呼び出しですか!これは拉致です!」
「まぁそう声を荒げるな」
「そうだよ!絵里達を人攫いみたいに言わないでよね!」
「今日君を呼び出したのは他でもない。我々の決着を付ける時が来たからだ!」

またこの人は訳の分からないことを言ってるのか。
あの時のライバル宣言もそうだが、この人は一体何が言いたいんだ。

「史章、それじゃ意味が分からないでしょ?ちゃんと説明してあげなくちゃ」
「そうだよ江武丸くん。彼、鳩が豆鉄砲食らった顔してるよ?」

困惑する俺に助け舟を出してくれたのが、マイクでおでこを強打した副会長の高橋さんと、空手少女で会計の紺野さんだ。

「うむ、では説明しよう。新垣くんを賭けた勝負をするということだ!!!」
「………紺野さん、この人にまたボディーブローしてもらえますか?」
「えっ?いやぁあの時は入学式の最中だったから仕方なくなんで……っていうか何で私の名前知ってるの?」
「あぁ里沙ねえに聞いたんです。里沙ねえと友達なんですってね」
「そっか、ガキさんに、うん納得」

今こうして喋ってる紺野さんを見てると、とても空手をやっていたようには見えない。
大人しいお嬢様って感じで、世間で言うところの癒し系のイメージだ。

「ところで江武丸くん、急にうずくまって何やってるの?」
「ボ、ボディブローはしないのか紺野くん?」
「し、しません!そんな所構わず殴ったりするわけないでしょう!」
「そうか…良かった、あれを食らうと三日はまともに食事が出来なくなるからな」
「そ、そんなに破壊力あったんですか!?」
「ありません!あるわけないでしょう!大げさなこと言わないで江武丸くん!」
「そりゃそうですよね……。ところで里沙ねえを賭けた勝負ってどういう意味ですか?」
「まぁ分かりやすく説明すると、会長はガキさんのことが好きなんだよ」
「こら亀井くん、恥かしいからそんなはっきりと言わないでくれたまえ!」
「まぁ全然相手にされてないけどね」
「道重くん、君は相変わらず物事をはっきり言うな……」
「でも一体何の関係があるって言うんですか。別に俺は里沙ねえの恋人でもなければ、お互いに異性として見てるわけじゃない。言ってしまえば姉弟みたいなもんです。こんな勝負に意味なんか無い。会長が里沙ねえを好きなら気持ちをちゃんと伝えれば良いじゃないですか」
「いや、気持ちは伝えてある、っていうか、史章がガキさんを好きなのは周知の事実なんだよね」
「だとしても俺と勝負するってことには繋がらない気がするんですが?」
「ほら君、入学式の朝にガキさんと追いかけっこしてたでしょ?」

高橋さんに言われその日のことを思い出す。
里沙ねえの想像以上のおバカさが発覚し、何故か俺がそのとばっちりで説教された時のことだ。

「追いかけっこっていうか……ただ単に俺が追われていただけっていうか……でもそれが何か?」
「史章はそれが楽しそうで羨ましかったんだって。で、入学式でのライバル宣言、そして今日の急な呼び出しに繋がるわけ。理解してもらえたかな?」
「はぁ、理解出来たような出来ないような……。でもモノじゃないんだから里沙ねえを賭けてってのは正直ちょっと……。それに仮に勝負して会長が勝ったとしても相手にされてないんじゃ意味が無くないですか?」
「いいえ、意味はあるわ」

生徒会室のドアが開き、里沙ねえが現れた。
その里沙ねえの登場によって、俺は生徒会長との勝負を余儀なくされるのだった。







【次回予告】

生徒会長、江武丸史章から突きつけられた里沙ねえを賭けた勝負。
それは俺だけでなく恋次や小春、そして学校全体をも巻き込んだ壮大な戦いの幕開けとなった。
それはまるで学校行事さながらのように。
しかしこんなことが何の問題視もされないなんて自由すぎだろこの学校……。

次回、”Hello!Days”第9話、『開幕!大威震七連制覇!!』

何処かで聞いたことある気がするのは気のせいだろうか……

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この記事へのコメント

m。@risa
2008年11月25日 19:53
ん?相思相愛じゃないのかよー
雰囲気では呼び捨てにしてる副生徒会長が絡んでくるのかね。
ところで「掛け」→「賭け」ねw