”Hello!Days”第1話『始まりの春』

新しい生活を始める時は、誰しもわくわくするような高揚感、そして不安な気持ちというものがあるものだ。
表立ってはそんな素振りは見せたくないので平静を保ってはいるが、それはこの俺、古羽雅貴も例外ではなかった。
といってもそれほど大げさなものではなく、単に今日から高校生活が始まるだけのこと。
昭和初期ならいざ知れず、高校の入学式なんて現代では殆んどの人間が経験するものである。
とはいえ、小学校や中学校とは違い、高校は自分の将来へ影響を及ぼす割合は格段に増える。
三年後、大学進学と就職のどっちになるかは分からないが、色々なものを学べる場なのは間違いないだろう。

普段はかなり能天気で楽天的な俺が、こんな事を真面目に考えてるのが自分でも可笑しくて思わず吹き出してしまう。
そんな俺に気付いた幼馴染が怪訝そうに聞いてきた。

「なーに一人でニヤけてるの?気持ちわるーい!」
「お前なぁ、言うに事欠いて気持悪いはないだろうが」
「だぁってぇ、いきなり隣りでニヤニヤしだすんだもーん」
「俺はお前と違って大人だから色々考えてんだよ」
「エッチなこと?」
「お、お前、俺をどういう目で見てんだ……」
「何よー!そっちだって小春が子供みたいな言い方してんじゃん!」
「大人は自分の事を名前で呼んだりしません」
「なによー!もうバカーー!!」
「それが子供だってんだよ」
「雅貴だって子供じゃん!里沙姉ちゃんもそう思うでしょ?」

さっきから子供のように騒いでるのは幼馴染の久住小春。
俺とは同い年で、小春も今日から俺と同じ高校に通うのだ。
見た目は結構大人っぽいし、一応誕生日は俺より三ヶ月ほど早いのだが、中身はまだ完全なお子様って感じだ。
だがそういう所が人気なのか知らないが、中学時代は結構告白されていたらしい。
しかし当の本人は恋愛事には一切興味がなく、玉砕し散っていった男子生徒の数は星の数ほどいるとかいないとか……。

そして小春が言う里沙姉ちゃんというのは、俺達より二学年の新垣里沙。
小春は姉ちゃんと呼んではいるが、苗字が違うので当然姉妹ではない。
小春と同じく俺の幼馴染ってやつで、当然ながら小春にとっても幼馴染だ。
幼い頃から面倒見が良いしっかり者で、俺達は彼女のことを実の姉ののように慕っていた。

「里沙ねえに助け求めてるんじゃねぇよ」
「なによー!」
「なんだよ!」
「はいはい、そこまで。まったく、入学式の朝からそんなことで喧嘩しないの!」
「「だって!」」

俺と小春の声が綺麗に重なった。
それに対し里沙ねぇはやれやれといった感じで肩をすくめる。

「アンタ達は二人ともまだまだ子供よ」


     ◇


俺達は学校に着いてすぐ、クラス分けが貼られてる掲示板の前へやってきた。
そして俺はすぐに自分の名前を見つける。

「あったー!小春A組だーー!雅貴は?」
「俺もA、まーたお前と一緒かぁ」
「なぁに、その不満そうな言い方はー」
「いやそういうわけじゃなくてさ、小学校一年の時から今年で十年連続だろ?すげぇなぁって思って」
「十年じゃないよ。十四年連続だってば」
「へっ?」
「幼稚園の四年間、すずらん組、あやめ組、きく組、たんぽぽ組ってずっと同じクラスだったじゃん」
「いや、あん時は同じ地区の子供が自動的に同じクラスに振り分けられてたんだから計算に加えちゃ駄目だろ?」
「いいのー!野暮なこと言っちゃ駄目だってばー」
「そういうものなのか?」
「そうそう、そういうものなの。ふふふふふ~ん♪」

小春はそのまま鼻歌を歌いながら何処かへ行ってしまった。
おそらく里沙ねえの所にでも行ったんだろう。
何であんなに嬉しそうなんだ?まぁ嬉しいに越したことないし別に良いか。
それに俺だって正直に言えば嬉しいし、知った顔がクラスにいるのは心強くもある。
あっそういやもう一人、幼稚園の頃からの腐れ縁はどうだろうか?
十三年で記録がストップするか、小春と同じように記録を更新するか……。

「よう、雅貴」
「おっ噂をすれば、ってしてねぇけど現れたな」
「はっ?何だそれ」
「いんや、こっちの話し」

こいつがもう一つの腐れ縁の正体。
小春や里沙ねえと同じく、俺の幼馴染の依田尾恋次。
ガキの頃は小春も入れて三人でよく悪さをしたもんだ。
まぁ小春の場合は無理やり俺達に付き合わされてたわけだが、必ずその後には里沙ねえのお説教が待っていた。

「まぁいいけどよ。それより今年もよろしくな」
「つーことは、お前もまた同じクラスか」
「おうよ、これで十年連続ってわけだ。腐れ縁もここまでくると怖いもんがあるよな」
「十年じゃなくて十四年連続らしいぞ」
「はっ?それって幼稚園の四年間もプラスするってことか?あの時は強制的っつーか自動的なんだし加算するのはどうかと思うけど」
「ふっ、野暮なこと言うもんじゃないぜ、恋次くんよ」
「お、お前どうしたんだ?何か悪いものでも食べたか?」
「食ってねーっつーの!俺じゃなくて小春がそう言ったんだよ」
「なるほど、小春なら言いそうだよな。アイツ喜んでただろ?」
「そりゃ相当にな」
「で、肝心の小春の姿が見えないみたいだけど?」
「里沙ねえの所じゃね?」
「わざわざ報告に行ったってわけか。相変わらず落ち着きのない奴だぜ」
「まったくだ」
「えーそれってひどーい!」

背後からの声に振り返ると、いつの間にか小春が里沙ねえを連れて戻ってきてた。
そして俺達の発言に対して不満があるようで、子供のように頬を膨らませ俺達を睨み付けてる。
恋次は男子としては背は低い方で、小春の方が背が高く、多少見下ろされる形になってるのだが、全くっていうほど威圧感は無い。

「おはよう里沙ねえ」
「うん、おはよう恋次。アンタも今日から高校生なんだからしっかりしなさいよ?」
「分かってるって。相変わらず里沙ねえはお袋みたいな言い方をするよな」
「こんな大きな息子を持った覚えはありません」
「俺もこんな若い母親に育てられた覚えはねーよ」
「コラー!小春を無視するなー!」
「あっ小春いたんだ」
「えーひどーい!雅貴ならともかく恋ちゃんまで小春をいじめるー!」
「人聞きの悪いことを言うな。俺がいつお前をいじめたってんだよ」
「いっつも意地悪ばっかり言うじゃん」
「言ってねーよ」
「言ってるもん!だって雅貴は鬼畜だし!」
「お前絶対意味分かってねぇだろ?相変わらず馬鹿だよな」
「なによ!そっちだって馬鹿じゃん!」
「こらっ!だから入学式の朝から喧嘩してんじゃないって言ってるでしょ!」
「「でも!」」
「でもじゃないの!返事は?」
「「はぁい…」」
「お前ら相変わらずだな。今日から高校生なんだからちったぁ大人になれよ」
「まさかお前にそんな事を言われるとはな」
「そーだそーだ!小春より小さいくせに恋ちゃん生意気だ!」
「お、お前らこういう時ばかり意気投合しやがって……。それより小春、恋ちゃんは止めてくれって何回も言っただろ。それと身長には触れるな」
「えーでも小春も何回も言ったよ?恋ちゃんは恋ちゃんだから止めないよーって」
「でもなぁ、高校生にもなって恋ちゃんってのは……」

そう、小春は子供の頃から恋次のことを『恋ちゃん』と呼んでるのだ。
だが子供の頃ならいざ知らず、高校生にもなって恋ちゃんはかなりキツイ。俺なら絶対に耐えられない。
恋次もそれは同様で、中学校二年くらいから呼び方を変えるように何度も小春に言ってきたが、先程のように毎回却下され続けてきたのだ。

「諦めろ恋次、恨むならそんな名前で生まれた自分と、恋次って名前を付けた親を恨むんだな」
「他人事だと思いやがって」
「だって他人事だもんよ」
「そうね、他人事ね」
「うわっ里沙ねえまでひでぇ!」
「まぁ良いじゃない可愛いし。何なら私も呼んであげようか?『恋ちゃん』って」
「頼むから止めてくれ。だいたいにして可愛さなんか求めてない」
「あら残念。まぁそんなことより恋次は何組だったの?」
「コイツもA組だよ」
「えー!恋ちゃんもA組だったんだ!すごーい!」
「まぁな、さっきコイツも言ってたけど俺達三人の腐れ縁もここまでくると怖いぜ」
「でも残念だなー、里沙姉ちゃんだけずっと違うんだもんね」
「当たり前でしょ?私はアンタ達より二学年上なんだから」
「そりゃそうだけど………あっそうだ!里沙姉ちゃん二回留年しなよ!そうしたら小春達と同じクラスになれるもん!」
「小春アンタねぇ、そんなことできるわけないでしょうが!」
「そうだぜ、それに仮に留年したとしてもクラスが同じになるとは限らないだろ」
「でも里沙姉ちゃんの場合本当に留年する可能性はあるよ。恋ちゃん覚えてない?」
「えっ?」
「ほら、中学一年の時に里沙姉ちゃんの家で小春達で勉強みてあげたことあったじゃん」
「ちょ、小春!」
「あぁそういやあったなぁ。確か中間で散々な結果を出して期末の時俺達に泣き付いてきたんだっけ」
「そんなことあったのか?全然聞いたことなかったぞ?」
「何か雅貴にだけは知られたくなかったんだって」
「お前がそんな事を知ったらすぐ調子に乗るから嫌だって言ってたぞ」
「何だその信用の無さは……」
「まぁそれはともかくよ、俺達もそんなに勉強出来る方じゃないけど里沙ねえは酷過ぎだったよな」
「そうそう、あれには流石の小春もビックリだよ」
「り、里沙ねえ、中三が中一に勉強教わるってのは問題あり過ぎだろ……」
「………」
「あれ里沙ねえ?」
「アンタ達ぃ、黙って聞いてれば何でもかんでも喋りまくってぇ……」
「り、里沙ねえ落ち着け!コイツらだって悪気があったわけじゃ、なっ?……あれ?」

怒りに震える里沙ねえをなだめようと、小春達の方に目を向けるがそこには二人の姿はなかった。
逃げやがったアイツら……。

「まーさーたーかー、よくも私に恥をかかせてくれたわねー!」
「ちょ、ちょっと待て!俺は関係無いだろ!」
「うるさい!連帯責任よ!小春だって昔アンタ達の悪戯のとばっちりで一緒に怒られてたでしょうが!」
「確かにそんなこともあったけど、これは連帯責任とは言わねぇっての!俺が一人冤罪を受けてるだけだ!」
「エンザイ?難しい言葉を使って逃れようとしても無駄よ!」
「濡れ衣ってことだ!それぐらい意味を知っとけ!」
「そんなのどうでもいいから、とにかく覚悟しなさい!」

駄目だこりゃ、ここまできたら覚悟を決めるしかなさそうだ。
でも何で入学式の日にこんな目にあわなければならないんだ。
こうして俺の高校生活は慌しくスタートしたのだった。







【次回予告】

大きな期待を胸に今日から始まった高校生活。
見知った顔もあり楽しい学園生活が過ごせそうだ。
だが実際は俺の想像とは少し違った出来事が待ち受けていたのだった。
何なんだあの男は一体……。

次回、”Hello!Days”第2話、『ライバル登場?』

今何かが動き出す……

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