娘。物語~Shared world~ 第4話『決意の旅』

メンバーとの間に大きな溝を生んでしまった日の夜、私は事務所に呼びだされた。
私はすぐに小春との事が理由だと理解した。
そこで通達されたのは少し休んで頭を冷やせということ。
ライブを1ヶ月後に控え、そんな暇は無いと抗議したが、命令だからと聞き入れてもらえなかった。
事務所に言われた期間は1週間。
もしそれで何ら解決の道が見つからなければ別な方法を考えざるえないと言われた。
おそらくそれは私のモーニング娘。の脱退。
『卒業』ではなく『脱退』。

だがこの時の私はそれでも良いとさえ考えていた。
自分でも分かっていた。
今の私がいても、モーニング娘。にとってプラスになる事は何も無い。
だったらいっそう辞めてしまった方が全て丸く収まると思ったのだ。
そんな事を考えながらロビーのソファーに腰を掛けていたら不意に声を掛けられた。

「ガキさん」

声の主はこんこんだった。
こんこんは大学受験を理由にモーニング娘。を卒業した。
そして一旦はハロプロからも卒業したわけだが、1年後ガッタスとしてハロプロに復帰し、今も学業と芸能界活動の両立を続けている。
おそらく私には出来ないことなので、こんこんのことを素直に凄いと思っていた。

「あの……大丈夫?」

さっき事務所から言われたことはまだ知らないはずだから、きっとメンバーとのことを言ってるのだろう。
さゆ辺りから聞いたのかもしれない。

「………どうだろ?分かんないや」
「ガキさん……」

こんこんの大きな瞳が僅かに滲んでいる。
私のことを本気で心配してくれてるのが見て取れた。

「あははは、こんこんが泣くことないじゃん」
「でも心配だよ、卒業したとはいえ同期の仲間なんだから」

こんこんの『仲間』という言葉が私の心を深く突き刺さった。

「ありがとう、でもメンバーはもう私のことを仲間だなって思ってないんだろうなぁ」
「そんなことないよ!」
「そんなことあるよ、だって聞いたんでしょ?私が何をしたのか」
「それは……」
「あんなことしておいて、仲間だなんて言えないじゃない」
「………」
「それにね私、モーニング娘。を辞めるかもしれないし」
「えっ!?」
「さっきね事務所から1週間休めって言われたの、少し頭を冷やせって」
「でもライブが1ヵ月後に控えてるのに?」
「うん、だからきっと事務所も私に見切りをつけたんだと思う、もうお前は必要無いってさ」
「そんな……」
「だからさ、私旅行でもしようかなって思って」
「旅行?」
「うん、何も考えずに1週間……、そして決めようと思う。まぁ最初から私を辞めさせる気なら意味ないことだけどね」

私の言葉にこんこんは俯き、何かを考えてる様子だった。
そして何かを決断したかのように顔をあげ私の方に向き直る。

「………分かった」
「えっ?」
「その旅行私も付き合う」
「はぁ?何言ってるの?」
「しばらく私は仕事オフだし、このままガキさんを放っておけないから」
「で、でも大学は?講義に出なくて大丈夫なの?」
「うん、ちゃんと単位はとってあるし大丈夫……だから付いて行っちゃ駄目かな?」
「………良いよ、じゃあ一緒に行こうか?」

思えばメンバーと2人で旅行なんて今まで無かったことだ。
こんこんは既に娘。を卒業してるとはいえ、芸能界を去る前に最後の思い出作りとしては丁度良いかもしれない。
だが、この旅行が私の今後の人生に大きな影響を及ぼすことになるのだ。
もちろん、この時点の私はそんなことを知るはずもなかった。

    ◇

「えっガキさんが1週間お休み!?」

マネージャーさんから言われた言葉は私達にとって青天の霹靂だった。

「どうしてですか!ライブも近いのに何で!?」
「その理由はアナタ達が一番よく分かってるんじゃないの?」
「それは……」
「確かにライブを控えて、リーダーの新垣が1週間も居ないのは大変かもしれない。でも今のままじゃ良い結果は生まれない、違う?」
「………」
「それと、最悪の結果も覚悟はしておいてね」
「ガキさんがこのまま娘。に戻らない可能性もあるってことですね?」

さゆの言葉に私は驚きを隠せなかった。

「そうなんですか!?ガキさんモーニング娘。を辞めちゃうんですか!?」
「そういう可能性もあるってことよ。その時は亀井、アナタが新リーダーになってもらうからね」
「そんな、そんなことって……」
「大丈夫だよ絵里、ガキさんはモーニング娘。が大好きなんだよ?絶対に辞めたりしない」
「そうっちゃね、ガキさんは絶対に帰ってくるとよ」
「あれ?れいなガキさんのこと怒ってたんじゃないの?」
「何古い話してると?れいなはいつまでも根にもつような子供じゃないと」
「昨日の今日なんだけど」

さゆとれいなは何も心配ないといった感じで笑いあってる。
私はそれにただ驚くだけだった。

「あっ亀井さんまた泣きそうになってる!」
「本当だ!泣き虫ですね亀井さんは」

小春と愛佳ちゃんも全く心配した様子は見せてない。
それを見てると一人で心配してるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

「な、泣いてないもん!というわけだから皆も心配することないからね?」

私は新メンバー3人に向き直り笑顔で言った。

「ふふふどうやら心配はなさそうね。まぁあとは新垣しだいだけど」
「大丈夫です!ガキさんは絶対に帰ってきます!絵里が太鼓判を押しちゃいます!」
「太鼓判の使い方少し間違ってる気がするんですけど」
「えっそうなの?」
「まぁ完全に間違ってへんけど、ちょっと違うと思いますよ」
「さすが愛佳ちゃんだね、紺野さん以来の優等生なだけあるよ」
「あぁそうそう、紺野が新垣と一緒にいるみたいなのよ」
「へっ?紺ちゃんが?」

私は予想もしてなかった人物の名前を聞いて思わず聞き返してしまった。

「昨日の夜たまたま紺野と会って、1週間旅行しながら今後の事考えるらしいわ」
「はぁ旅行?アイツ人に心配かけといて旅行って……帰ってきたらめっちゃ怒ってやると!」
「あはは、れいなまたアイツ呼ばわりしてるし、でも良かったんですか?」
「ええ、家でじっとしてるより、その方が新垣も冷静に考えれて良いと思ったからね」
「それもそうですね、絵里や小春ちゃんなら心配だけど、ガキさんなら変なこともしないと思うし」
「ちょっとさゆぅ、それどういう意味なわけ?」
「そうですよ!小春だってもう大人なんだから大丈夫です!」
「いや、亀井さんと小春ちゃんは愛佳も心配です」
「れいなも同じく」
「だよねぇ?」
「「うそぉ!!」」

こんな風にいつものようにふざけてはみるが、メンバーそれぞれ不安な気持ちがあるのは確かなんだろう。
新メンバーの3人は特にその気持ちが大きいと思う。
でも私達6期メンバーや小春に愛佳ちゃんは、ガキさんと共に過ごしてきた沢山の時間がある。
ガキさんが本当はどういう子なのか、どれだけモーニング娘。を愛しているかを知っている。
だからきっとガキさんは私達の所へ帰ってくる。
そう信じてるんだ。

(………ガキさん大丈夫だよね?)

私は心の中でその場にいないガキさんへと問いかけるのだった……。

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