娘。物語~Shared world~ 第3話『メンバーの気持ち』

私は道重さん、田中さんと帰り支度をしながら、さっきの事を話していた。

「なんなん!あの態度!あ~腹立つ!!」
「新垣さんどうしちゃったんでしょうね?最近ピリピリしすぎじゃないですか?」
「そうだね、でもガキさんも色々あるんだよ」
「そんなんアイツの勝手な都合やろ!れいな達に当り散らされても迷惑だっつーの!」
「うわぁ、ガキさんをアイツ呼ばわり?れいなも言うよねぇ」
「だって腹立つやろ?小春が怒り出さなきゃれいなが怒っとったっつーの!」
「やっぱそうだったんだ?れいなにしてはよく我慢したなぁって思ったんだよね」

新垣さんに対する不満を爆発させる田中さんとは裏腹に、道重さんはいたって冷静だった。
そういえば小春ちゃんと、小春ちゃんを追いかけていった亀井さんはどうしただろうか?
そろそろ戻って来ても良い頃だ。
でもレッスン場にはまだ新垣さんがいるだろうし、さっきの感じからでは中に入りづらいのは間違いない。

「愛佳ちゃんはどう思った?」

突然、道重さんが私に話を振ってきた。

「えっ?新垣さんのことですか?」
「もちろん、今それ以外に何の話をするっていうの?」
「愛佳だって腹立ったやろ?」
「……う~ん…腹が立つっていうか……何か悲しかったです」
「はぁ?悲しいってなんね」
「ふふふ、どうやられいなより愛佳ちゃんの方が大人みたいだね」
「なんなんそれ!意味分からん!」

私も道重さんの言葉の意味が分からなかった。
私のどこが大人だっていうのだろう?
さっき私が悲しかったと表現したのは嘘ではない。
でもそれは単に私が田中さんより沸点が低いだけのことで、その事が私の方が大人というのとは違うと感じたからだ。

「あの…どういうことですか?道重さんは何か分かってるんですか?」
「何となくね。まぁ絶対とは言えないけど、おそらく間違いないと思う」
「あ~もうマジでムカつく!!我慢せんで小春みたく文句言えばよかった!」
「れいなどこ行くの?まさか今から喧嘩ふっかけに行く気?」
「帰る!帰って寝る!」
「そっか、じゃあお疲れ」
「お疲れ様です」
「お疲れいな~♪」

さっきよりか幾分か機嫌が直ったのか、田中さんは笑顔で私達に手を振りながら帰っていった。

   ◇

「ね~小春、そろそろ戻ろうよ」
「嫌です!戻りません!!」
「でもさぁ皆心配しているよ?」
「してません!してたら探しに来てくれてます!」
「だぁってさぁ、まさか屋上に来てるなんて思わないじゃん?だから戻ろう?」
「………」

ガキさんに叩かれてレッスン場を飛び出した小春を追いかけて屋上まで来ていた。
まったく、中間管理職って大変だよ。

「ねぇ小春、何であんな事言っちゃったの?さすがにあれは言いすぎだと思うよ?」
「誰かが言わなくちゃ駄目だったじゃないですか!」
「そうかもしれないけど、とにかくさ、戻ってガキさんに謝ろう?ねっ?」
「それは出来ません!小春間違った事言ってませんもん!それに小春は頬っぺた叩かれたんですよ?何で謝らなくちゃならないんですか!」
「そうだけど、そうなんだけど、やっぱガキさんはリーダーだしさ……」
「小春言いましたよね?今の新垣さんをリーダーだなんて認めないって!」
「もーじゃあどうすれって言うの?」
「簡単なことです。新垣さんが変われば、ううん、昔の新垣さんに戻れば良いだけの話しです」
「昔のガキさん?」
「そうです、昔の新垣さんです。昔は今みたい怒ってばかりじゃなくて、厳しいけど優しくて、面倒見の良いお姉ちゃんみたいな人だったじゃないですか」
「そうだね、ガキさんと絵里は同い年だけど、絵里にとってもお姉ちゃんみたいな人だったな」
「10年記念隊の時とかも、私の面倒を一生懸命見てくれました。恥かしいから口に出して言わなかったけど凄く嬉しかったんです」
「言ってあげればよかったのに。それに今日の事も今小春が言ったように『昔の新垣さんに戻ってください』って言えば」
「私達が言ったんじゃ意味がないよ、ガキさんが自分で気付かなくちゃ」

突然の声に振り向くと、そこにはさゆと、愛佳ちゃんがいた。

「ここにいたんだ」
「なんだぁさゆ達か、びっくりさせないでよ」
「小春ちゃん大丈夫ですか?」
「うん大丈夫、ありがとう愛佳」
「ごめん、すぐ戻ろうと思ったんだけどさ」
「いいよ別に、今日はもう解散になって私達とガキさん以外は皆帰ったから」
「そっか、でもこのままじゃ良くないよね。小春さっきも言ったけどガキさんにちゃんと謝ってさ……」
「謝りません!」
「いつまで意地はってちゃ駄目だって!」
「別に意地なんか張ってません!」
「張ってるじゃん!」
「良いんじゃないそれで?」

さゆの口から思わぬ言葉が出た。
意地を張ってても良い?
このままじゃモーニング娘。がどんどんバラバラになっちゃうかもしれないのに。

「どういうこと?それにさっきもガキさんが自分で気付かなくちゃ駄目とか言ったけど」
「今のガキさんに私達が何を言っても素直に聞いてくれないと思うの」
「そうかもしれないけど、言ってみなくちゃ分かんないじゃん!」
「分かるよ、それに多分ガキさんは本当は自分で気付いてると思う。自分が間違ってることにね」
「えっ?じゃあどうしてガキさんは……」
「モーニング娘。への愛と、ガキさんの責任感の強さが必要以上に焦りを生んじゃってるんじゃないかな?」
「焦り?」
「そう、モーニング娘。を守っていかなくちゃ、リーダーとしてちゃんと引っ張っていかなくちゃ、そういう思いからね」
「私もさっき道重さんから聞いて、そうなんだって思いました」
「小春もそう思います、新垣さんは今焦ってる。でもどうしたら良いか分からないでいる……ううん、忘れちゃってるんだ」
「何だ小春ちゃんも気付いてたんだ、さすがミラクルだね」
「こんな時に茶化さないでくださいよ」
「ごめんごめん、そんなつもりじゃないの。でもそれが分かってって、あれだけガキさんに言えるって凄いなって感心したから」

そうだったんだ……。
私はそんな所まで頭が回らなかった。
ただガキさんどうしちゃったんだろう?って思うだけで、ガキさんの心をちゃんと理解しようとしなかった。
本当は私が一番最初に気付いてあげなくちゃいけないのに。
さゆや小春はガキさんの苦しみに気付けたのに、なのに私は……。

「え、絵里、何で泣いてるの?」
「駄目だ私、サブリーダーのくせに全然駄目だ。私がもっとしっかりしてたらガキさんが苦しまずに済んだのに」
「絵里は頑張ってると思うよ?それにやっぱり一番悪いのはガキさんだと思うの」
「えっ?」
「リーダーとして頑張るのは必要だと思うよ?でもだからって全部1人で背負い込んで、1人で苦しむのは間違ってる」
「私達は全員でモーニング娘。なんです。新垣さん1人でモーニング娘。をやってるわけじゃない」
「そうだね愛佳ちゃん、だからもっと心を開いて、私達を頼ってほしいって思う。小春ちゃんも同じでしょ?」
「はい、そうです」
「そういう意味では絵里も同じだよ?」
「えっ?」
「さっきさ、『サブリーダーのくせに全然駄目だ』って言ったでしょ?絵里も何でもかんでも背負い込もうとしちゃってるんじゃないの?」
「あっ……」
「もっと私達を頼ってください」
「そうですよ、小春だってちゃんと成長してるんですからね」
「まったく困ったもんだよね、ウチのリーダーもサブリーダーも勝手に突っ走っちゃてさ。何なら今から私がリーダーやる?」
「あっ良いかも!で、小春がサブリーダー?」
「えぇ~駄目ですよぉ小春ちゃん、サブリーダーは私です」
「うそぉ!?小春これでも一応先輩なんですけど!」
「どっちもどっちじゃない?」
「え~ひど~い!」

そう言ってさゆ達は楽しそうに笑う。
私は一人涙を流しながらその光景を見ていた。
その時の私はさぞ間抜けな表情をしていたと思う。

「ほら、もう泣かないでください」

愛佳ちゃんがそう言いながら私にハンカチを差し出す。
彼女の性格を現すかのようにハンカチは綺麗に折りたたまれていた。

「そうですよ、あ~亀井さん鼻水も垂らしてる!きたな~い!」
「う、うるさいなぁ、そういう小春だってさっき鼻水垂らしてたじゃん!私が貸したハンカチちゃんと洗って返してよね!」
「亀井さんもチーンってやっちゃっても良いですよ?ちゃんと洗って返してくれるなら」
「あの、言っとくけど小春はチーンなんてやってないからね!」
「まぁつまり、絵里と小春ちゃんは鼻水垂らして泣いた汚い二人ってことだね」
「「汚いって言うな!」」
「うわぁ出た、道重さんの毒舌」

愛佳ちゃんのその一言に、今度は私も一緒になって笑った。
鼻水の痕は残ったままだったけど、心は少し晴れていた。

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