娘。物語~Shared world~ 第2話『リーダー』

愛ちゃんが卒業して3ヶ月が経った。
私は愛ちゃんからリーダーを引き継ぎ、ついに1番上の年齢となったのだ。
本来なら一番年上はジュンジュンなのだが、愛ちゃんの卒業と同時にジュンジュンとリンリンも卒業し、更に9期メンバー3人も合流したのだ。
ジュンジュンとリンリンの卒業が想像以上に早かったのには驚いたが、元々留学生という事を考えればさほど不思議ではないのかもしれない。
今2人はハロプロに籍を残したまま、故郷の中国に戻り芸能界活動を続けている。
よって今モーニング娘。は愛ちゃん達が卒業する前と同じ9名の大所帯だ。

今私達は40枚目となるニューシングルのレコーディングとダンスレッスンに追われている。
愛ちゃんが卒業した事により、私がモーニング娘。在籍期間が最長となり、シングル参加曲も28曲と歴代メンバーの中でも最多となった。
加入した頃にはこんな日が来るなんて想像もしていなかっただけに不思議な感じがする。
だがそれと同時にリーダーという責任ある立場を任された事によるプレッシャーが私に重く圧し掛かっていたのだ。

「音楽止めて……、新メンバー何やってるの!そんな簡単なステップ間違えないで!」
「す、すみません、でももう体力が……」
「口答えしないで!アンタ達はまだまだ覚えなきゃならない事沢山あるんだからのん気な事言ってる暇ないのよ!」

プレッシャーからくる焦り。
それが大きな苛立ちとなり、必要以上に新メンバーにきつく当たってしまう。

「ちょ、ちょっとガキさん待ってください、少し休憩しませんか?」
「何言ってるの!休んでる暇なんてないでしょうが!」
「でも絵里達だってかなりキツイのに、新メンバーに同じ事しろって言っても無茶ですってば」
「サブリーダーのアンタがそうだから新メンバーが甘えるんでしょう!もっと自覚をもちなさい!」
「………分かりました、でも10分、いえ5分でいいので休ませてあげてください」
「……分かった、5分だけよ」
「ありがとうございます、じゃあみんな少し休憩ね?」

新メンバーだけじゃなく、他の子達もほっとした表情で床に座り込む。
正直な事を言えば私自身も体力的に限界が近く、すぐにでも座りたかったが、先程あれだけ厳しくいった手前できずにいた。

「あっガキさんも休みましょう?」

カメがそんな私に気付き声を掛けてくる。
しかしそんな彼女の気遣いさえも、私の苛立ちを倍増してしまい、思ってもいない言葉が口をつく。

「大きなお世話よ!アンタ達とは鍛え方が違うんだから放っておいて!!」
「そ、そうですか、余計な事を言っちゃってゴメンなさい」

そんなやり取りを見ていた小春が口を開く。

「何ですかその言い方、ちょっと酷くありません?」
「酷いってどこが?私は本当のことを言っただけよ」

小春が私を睨みつける。
この子に会って4年以上が経つけどこんな表情を見るのは初めてのことだった。

「何その目?」
「……もう新垣さんには付いていけません」
「それ、どういう意味?」
「言葉通りの意味です」
「リーダーに向かってそんな口きいていいと思ってるわけ?」

すると小春は馬鹿にしたような目を私に向け言い放った。

「へぇリーダー?そんな人がどこにいるって言うんですかねぇ?」
「何ですって」
「ただ怒鳴り散らしているのがリーダーなんですか?私達の気持も考えないで頭ごなしに押さえつけるのがリーダーなんですか?もしそんなのがリーダーだって言うなら小春は新垣さんをリーダーだと認めません!」
「小春、アンタ随分と偉くなったもんだね」
「言いすぎだって小春……ガキさん、小春は今疲れて機嫌が悪いだけなんです、だから……」
「アンタは口を出さないで!」
「ほらまた怒鳴った!そんなんじゃ小春だけじゃない、他の誰も付いてきませんよ!」
「……黙りなさい」
「黙りません!新垣さんは8年間もモーニング娘。にいて何を見てきたんですか!」
「……黙りなさい」
「吉澤さんは厳しくてもちゃんと思いやりを持ってた!高橋さんは普段ちょっと頼りなくても怒らなくちゃいけない時はちゃんと怒ってくれた!」
「……黙れ」
「でも新垣さんはただ怒るだけ、怒鳴るだけ、そんな人がリーダーだなんて言えるんですか!?」

パシーン

「黙れって言ってるでしょ!!」

思わず手が出ていた。
普通に生きていけば人の頬を平手打ちする事なんてそうはない。
ほとんどの人が一度も経験せずに終わるはずだ。
でも私は自分の間違いを棚に上げ、それを指摘された事による怒りを、大切な仲間にぶつけてしまったのだ。

「……何で」

小春の大きな目から涙がこぼれ落ちる。
ぽたぽたぽたぽた、止め処もなく流れていた。

「何でこんな風になっちゃったんですか?前はこんなんじゃなかったのに……」
「………」

誰もが黙ったままだった。
そして私も小春の涙の訴えに何も言えずにうつむいたままでいた。

「……くっ」
「あっ小春!」

小春は全てを諦めたかのような悲しい表情で私を一瞥すると、部屋から飛び出していった。
カメがそれを追いかけるように、ほぼ同時に部屋を出て行く。
それから少しの沈黙が流れた。
時間にすれば1分にも満たない短いものだったが、それは永遠に感じられ、その空気の重さに誰もが押し潰されそうだった。
そんな重い空気を掻き消すかのように、さゆが沈黙を破る。

「ガキさん今日はもう終わりません?こんな状況で練習続けても意味ないですし」
「……そうだね、じゃあ今日は解散」
「分かりました、じゃあ新メンバーの皆、ちゃんと汗拭いてから帰るんだよ?風邪ひいたら大変だからね」
「は、はい」
「お疲れ様でした」
「お先に失礼します」

新メンバーの3人が私達に挨拶をすませ部屋を後にする。
レッスン場には私と、さゆ、れいな、愛佳が残された。

「ガキさん私達も帰りましょう?」
「………私はもう少し残って練習していくから先に帰ってなさい」
「……分かりました、じゃあお先です。れいな、愛佳ちゃん行こう?」
「あ、う、うん…お疲れ様でした」
「新垣さんお先に失礼します」
「………」

3人の言葉に私は返事を返すわけでもなく、背を向けたまま見送るしかできなかった。

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