ハロー荘へようこそ!第6話『記憶を失くした少女』

それはとある初夏の日の出来事だった。

「・・・・・ん・・・うん・・・・」
「おい!大丈夫か愛!」
「・・・・・・」
「おいどうした、何か反応しろよ!」
「・・・・・ここ何処?」
「はっ?」

   ◇

私の名前は高橋愛、というらしい。
らしいっていうのは、私が記憶喪失で自分の名前を覚えていないから・・・。
何故私が記憶喪失になったかというと、記憶喪失なのだから当然覚えていない。
だが聞いた話によると、ジュースの空き缶が頭にヒットしたのが原因らしいのだ。
その空き缶は、私が住む女子寮に面した通りから小学生が蹴った物が飛んできたみたいだけど・・・。
それが事実なら随分と不運というか、間抜けというか・・・。
今その寮の住人達が私を取り囲み、心配そうな表情を浮かべている。
その中でも特にこの3人、どうやら私と同時期にここへ来た子達みたい。

「愛ちゃん、本当に覚えてないの?」
「う、うん」

ほっぺたが特徴的なこの子は、紺野あさ美ちゃん。
私とは愛紺というコンビ名で知られてるみたいだ。
コンビって私達はお笑いコンビかよ!

「愛ちゃぁん、早く思い出してよぉ!」
「いや、そう言われても・・・」

この口調がちょっとアホっぽいのは小川麻琴ちゃん。
昔は私とライバル関係みたいに言われてたみたい。
って何のライバルなんだろう?

「愛ちゃん、落ち着いてゆっくり思い出してみようか?」
「うん、頑張る・・・」

3人の中で1番しっかりしたイメージのこの子は新垣里沙ちゃん。
そのイメージが裏付けるように、彼女を塾長と呼んでる子もいる。
何かの塾を経営してるんだろうか・・・・いやまさか・・・。

「う~ん、しかし困ったな」
「お医者様が言うには一時的なものみたいだけど」

この男の人は、管理人の根良武さん。
そして隣の背が低い女の人は矢口真里さん。
他にも沢山の人がいるけど、自己紹介してもらわなくては全然分からない。
親の顔も思い出せない事から、本当にありとあらゆる記憶が欠落してるみたいだ。

「まあしばらくは様子を見るしかないだろうな・・・」
「そうだね」
「愛、俺たちも協力するからさ、何かしてほしい事があったら何でも言ってくれよ?」
「は、はい・・・」

   ◇

私が記憶を失くしてから3日が経った。
だが、一向に記憶が戻る気配は無い。
もしかしたら一生戻らないんじゃないだろうか?
そんな不安が頭をよぎる。
でも、周りに心配をかけたくないので、精一杯明るく振舞っていた。

「愛ちゃんおはよう」
「おっはよう愛ちゃん」

紺野さんと小川さんだ。

「あっ、紺野さん小川さんおはよう」
「もう、さん付けなんて他人行儀な呼び方は止めてって言ったでしょう?」
「そうだよぉ、そんなのダメダメ」
「うん、でも・・・」
「でもじゃな~い!いい?私の事は『麻琴』もしくは『まこっちゃん』、
 んで、この子の事は『こんこん』もしくは『あさ美ちゃん』分かった!?」
「は、はい!」

小川さんは物凄い勢いでまくしたてた。
その勢いに私は圧倒される。
この子いつもこんなにテンションが高いんだろうか?

「じゃあ・・・まこっちゃんと、あさ美ちゃんって呼ぶね?」
「よしよし、後いつも一緒にいるもう一人の子は『ガキさん』もしくは『里沙ちゃん』、他の皆は・・・」

その後、誰をどう呼ぶかレクチャーが始まった。
といっても半分は普通に苗字にさん付けだったが、愛称で呼ぶのは・・・・
やぐっつぁん、ミキティ、亀ちゃん、重さん、れいな、小春ちゃん・・・など。
どれも私が記憶を失くす前に呼んでた呼び方らしい。

「どう分かった?」
「な、何とか・・・」
「よしよし、んじゃあ朝食としましょう!食堂へレッツらゴ~!!」
「・・・・・」
「ごめんね、麻琴テンション高くて」

紺野さ・・・あさ美ちゃんは少し申し訳なさそうな顔をする。
でも、まこっちゃんの高いテンションも、少し前の私にとっては日常だったはずで・・・。
それを忘れてしまっている事が、やはり寂しかった。

   ◇

その日の午後、寮の住人達が集まり何かを話していた。
どうやら私の記憶を戻すための作戦会議みたいだ。

「しゃあないなぁ、ここは私の出番やな」

そう言って立ち上がったのは稲葉貴子さんというOLの人だ。
現在31歳の独身で、結婚の予定は全然無いらしい。

作戦その1『逆行催眠』

「え~では、逆行催眠によって記憶を戻してみせます」
「あの、稲葉さん催眠術なんて使えるんですか?」
「ふふん、舐めんといてもらおか?私はこう見えても『自称』業界ナンバー1催眠術師やで!」
「自称かよ!それに業界ってどのこ業界だよ!」
「小川ええで、フリといいツッコミといい中々のもんや」
「二人とも漫才やってる場合じゃないですよ」
「紺野は真面目やなぁ、でも遊び心も大切やで」
「そうそう、余裕を持っていきまっしょい!」

そんなやり取りの後、稲葉さんによる逆行催眠が始まった。

「ええか?この5円玉をよ~く見るんやで」
「は、はい」
「貴女はだんだん眠くなる、貴女はだんだん眠くなる・・・」
「・・・・」
「貴女はだんだん眠くなる、貴女はだんだん眠くなる・・・」
「・・・・」

左右に揺れる5円玉を見つめる。
でも一向に眠くはならない。

「貴女は・・・だんだん・・・・眠くなる、貴女は・・・だんだん眠く・・・・・」
「・・・稲葉さん?」
「ぐぉ~!ぐぉ~!ぐぉ~!」
「・・・・・」
「「うぉい!!」」

その場にいた全員が一斉に突っ込んだ。
自らの催眠にかかり寝てしまった稲葉さんは、その後1時間も目を覚まさなかった。

作戦その2『想い出話』

「写真用意したね?」
「うん、バッチリだよぉ」
「でもこれってこの間やったけど駄目だったじゃない」
「今度は本格的にだよ、あさ美ちゃん」
「そうそう、まこっちゃんの言う通り、大丈夫だよ」

今度の作戦は、想い出のスナップ写真を見ながら語り合うというもの。
確かにあさ美ちゃんの言うように、この方法は先日失敗している。
ただその時は写真は使ってなかったからもしかしたら・・・・。

「じゃあ開始!」

まこっちゃんの掛け声で始まった。

「うっわ~懐かしいねぇ、これってウチらがここに来た頃のじゃん」
「里沙ちゃんオデコ全開だよ?麻琴もアホになる間だ」
「こらこら、誰がアホやねん!」
「わ~愛ちゃん可愛い!訛りが全然抜けてない頃だね」
「おいおい無視ですかい?紺野さん」

3人は想い出話に華を咲かせている。
でも私はその会話に入る事が出来ないでいる。
それに私は記憶と一緒に訛りも失くしたみたいだけど、そんなに訛ってたんだろうか?
そんな事すら忘れてしまってると思うと少し泣けてきた・・・。

「おいおい、お前ら高橋の事忘れてないか?」

そんな私の様子に気づいたやっぐつぁんが口を開いた。
その後私は3人に平謝りされるのだった・・・。

作戦その3『科学の力』

「そろそろ私の出番ね」

そう言うのは現在謹慎中だという、婦警の飯田さん。

「んでお前は何をするつもりなんだ?」
「武くん、よくぞ聞いてくれました、ここはやっぱ科学の力ね」
「科学の力?」
「そう、私が独自で開発した『超・スーパー・ウルトラ・ハイパー・グレート・ミラクルLOVEマシーン』よ!」
「・・・この間のGPSといいお前何者だ?それにLOVEって何だよ」
「私は超可愛い婦警さん、そしてLOVEは『高橋愛』の『愛』よ」
「はいはい」
「こら!流すな!!」
「それより大丈夫なんだろうな?見る感じだと頭に装着するんだろ?」
「大丈夫よ、ちょっと電力が強いから、使用後は物凄いアフロヘアーになるだけだから」
「ア、アフロヘアー?」
「うん、3ヶ月は元に戻らないわね」
「・・・・皆、他に何か良い案はないか?」
「こらぁ!」
「却下だ」
「何でよ!それで記憶が戻るのよ!?」
「じゃあ本人に聞いてみろ」
「高橋やるよね?」
「・・・・・ゴメンなさい」

作戦その4『同じ衝撃』

「そもそも記憶を失ったのが空き缶が頭に当たったのが原因でしょ?
 だったらもう一度同じ衝撃を与えればいいんじゃないかな?」

そう言うのは石川さん。

「まあ確かに漫画とかじゃ定番だけどな」
「でしょ?やってみる価値はあるんじゃないかな?」

こうして石川さん案が採用され、実行される事となった。

「よ~し、じゃあ高橋はそこに立って」
「はいぃ!」
「そんなに怯えなくても大丈夫よ、かる~くいくからさ」
「はいぃ!」
「じゃあいくよ!」

カンッ!

石川さんの蹴った缶が放物線を描いて私の方へ飛んでくる。

ヒュルルルルルルル・・・・ポカッ!

「いたっ!」
「どう、思い出した?」
「・・・・・・駄目です」
「駄目かぁ、いけると思ったんだけどなぁ」

石川さんはガックリと肩を落とす。
よっぽど自信があったんだろうけど古典的すぎるよね・・・。
そう私が思っていると、吉澤さんが間に割って入ってきた。

「勢いが足りねぇんだよ、今度は私がやらせろ」
「えっ?」
「思いっきりいくからな、動くなよ?」
「えっ?えっ?」

目をパチクリさせている私を尻目に、吉澤さんは既に蹴る体制に入っている。
そして雄たけびを上げながら缶を蹴る。

「うおぉぉぉぉりゃあ!!!!!!」

バキッ!ビュォ~~!!!

今度は私の頭めがけて直線的に缶が向かってくる。
ちょ、ちょっと、こんなの頭に当たったら・・・・。
私は咄嗟にしゃがみ込む。

「こらぁ!避けるなぁ!!」
「だって・・・」

ガイ~ン!!

文句を言おうと顔を上げた時、背後で鈍い音が響いた。
後ろを振り向くと、管理人さんがヨロヨロふらついている。
どうやら私が避けたせいで当たってしまったようだ。

「あっ・・・」
「・・・・な、なんで俺が・・・・あ、あんまりだ・・・」
「武さん!」
「・・・あうぃ・・・」

あさ美ちゃんが駆け寄ると同時に、管理人さんは倒れ込んだ。

「武さん!武さん!しっかりして下さい!武さん!!」

あさ美ちゃんの腕に抱かれる管理人さんは、白目をむいて完全に気を失ってるようだ。

「よっすぃ~、やっぱこの作戦も失敗だよ、余計な犠牲者まで出ちゃったし」
「おめぇが言い出したんだろうが!」
「私のせいだっていうの?よっすぃ~が強く蹴りすぎるからでしょう!?」
「何だよ!お前がこんな作戦思いついたからだろうが!」
「何よ!蹴ったの私じゃないもん!加減ってものを考えなさいよね!」

石川さんと吉澤さんは言い合いを始めてしまった。
お互いにどっちが悪いとか言い合っている。
あの・・・それより・・・管理人さんは放ったらかし?

「やれやれ、この間私とたけ兄の喧嘩止めてた二人が喧嘩してるよ」

ミキティはそう言って、呆れ顔で笑っている。
どうやら私の記憶が戻るのはまだまだ先みたい・・・。

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この記事へのコメント

2006年08月15日 21:52
こんにちは。
第6話にして初めて妄想劇を読まさせていただきました。

以外や以外、面白いじゃありませんか!!( ̄□ ̄;)!!
こらから第一話から読み返してきます。
これって何話まで続くんですか?